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マイノリティの「つながらない権利」

おわりに 私のままで生存できる社会を作る

 この連載の始まりは、「コミュニケーションから逃げたい」だった。連載を終えようとしている現在、それは「対面コミュニケーションから逃げたい」「他者と距離を遠く設定したい」に変化している。

 対面コミュニケーションの訓練をしようとは思わなかった。しなければならないのだろうかと追い詰められた時期もあったが、「それはおかしい」と思い直した。

 どうして私が望んでいないことを生きるために仕方なくやらなければいけないのか。

 生きるために食べるように、それは本当にやるべきことなのか。

 絶対に違う。何のための現代なのか。何のための知性なのか。

 自然とそうなってしまうことに介入し、解決策を見出だせるからこその人間だろう。

 

 私は対面コミュニケーションから逃げたいし、人と距離を取っておきたいと考えている。

 でも、なかには対面コミュニケーションが苦手だけど、そこでしか満たされないものがあり、それを求めている人もいるだろう。そういう人には本連載は有意義な提案をできていない。

 その代わり、誰かと「つながる」ことが難しいあるいは望んでいないけれど、生存に必要な情報を得たいと願う人にとっては重要な提案になったと考えている。

 

 生存に必要な情報を得る権利は誰にでもあり、コミュニケーションを回避しようとしまいと保障されるべき権利だ。

 人間は、どんな人間であっても人権があると決めた。それに従えば、マイノリティであるからこそコミュニケーションをしなければならなくなるのは、人権侵害だ。マイノリティは、あたかもそうしなければならないかのように思わされてきた。

 本当は現代の技術や知識で何とかできるのに。

 

 私の人生は私のためだけにある。

 私が私を喜ばせるために行動し、生きていく。

 それだけで時間はいくらあっても足りない。

 望まないことをやらせようとする社会に付き合う時間なんかない。ただでさえ、私の持つリソースは限られている。

 

 私達には人権がある。

 それは多様な生き方を肯定し、先に進むためのものだ。

 私が私のままで、そしてこれを読んでいるあなたがあなたのまま生存する。

 そんな社会を実現するのに、マイノリティの「つながらない権利」は一つの希望として存在する。

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著者略歴

  1. 雁屋 優(かりや・ゆう)

    1995年、東京都生まれ。生後数ヶ月でアルビノと診断される。高校までを北海道の普通校で過ごし、関東の国立大学理学部に進学、卒業する。卒業とほぼ同時期に発達障害の一つ、自閉スペクトラム症(ASD)とうつ病と診断され、治療しながら就職活動をする。病院勤務、行政機関勤務を経て、現在は札幌市を拠点にフリーランスのライターとして活動。科学、障害に関するインタビュー記事、ジェンダー、障害、セクシュアルマイノリティに関するコラムの他、さまざまな執筆業務を手がけている。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ、人とつながることを避けて通れないという逆説的ともいえる現状に疑問を抱いてきた。日本アルビニズムネットワーク(JAN)スタッフ。視覚障害者手帳4級、精神障害保健福祉手帳2級。

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