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マイノリティの「つながらない権利」

障害開示や特別支援教育の視点から、マイノリティの「つながらない権利」を捉え直す~相羽大輔さんインタビュー~【前編】

 私自身もマイノリティではあるが、当事者支援についてはまだ知識が浅い部分も少なくない。当事者コミュニティを怖がっていたのだから、ある意味当然ではある。では、当事者支援に関わり続けている当事者は、マイノリティの「つながらない権利」という発想をどう捉えるのだろうか。アルビノ当事者であり、障害開示や特別支援教育を専門としている研究者の相羽大輔さんにお話を伺った。


相羽大輔さんプロフィール

相羽大輔(あいば だいすけ)

専門は障害開示、特別支援教育(特に視覚障害)。

愛知教育大学教育科学系 特別支援教育講座 准教授/日本アルビニズムネットワーク(JAN)スタッフ。

アルビノ(眼皮膚白皮症)の当事者で、当事者団体の必要性を発信するとともに、自身も当事者支援に関わり続けている。

著書に、『アルビノの話をしよう』(共著、解放出版社、2017年)、『新訂版 視覚障害教育入門Q&A ―確かな専門性の基盤となる基礎的な知識を身に付けるために―』(共著、ジアース教育新社、2018年)などがある。

また、『アルビノを生きる』(川名紀美著、河出書房新社、2013年、2023年に新装版発売)にも、登場している。


合理的配慮のためにはニーズの表明が欠かせないけれど……

――相羽さんの研究内容はどのようなものなのでしょうか。

相羽さん(以下、相羽):障害者の行動を社会にいる人々がどう受け取り、反応するのかを対人社会心理学的な方法論を使って研究しています。まさにコミュニケーションの話ですね。視覚障害児に対する特別支援教育に関しては実践も多く行っています。

――コミュニケーションに苦手意識があるので、コミュニケーションと聞くと反射的に逃げたくなってしまいます。私は、マイノリティの「つながらない権利」とは情報保障の問題であり、情報が不均衡であることによるものだと考えています。その意味で、当事者コミュニティによる情報保障には限界があるのではないでしょうか。

相羽:「コミュニケーションが苦手」とのことでしたが、コミュニケーションのどのようなところが苦手で、どのようなことなら許容できるのでしょうか。

――私の場合、まず同じ空間にいること、それから顔が見えるのが苦手です。音声のみの通話、インターネットを介した文字のみのやり取りは苦手ではなく、むしろ楽しいです。

相羽:コミュニケーションの内容による違いはありますか。

――趣味の話であれば、「初対面の人と会うのは苦手だけど行ってみよう」と考えるけれど、必要だから行くとなると、あまり気は進まないですね。

相羽:対人行動を考えたときに、コミュニケーションとはそういうものなんです。コミュニケーションは様々な要因の影響を受けて成り立ちます。これは様々なコミュニケーションモデルでも示されています。特に、自己開示、特に障害を相手に伝える障害開示は僕の研究テーマの一つなのですが、障害開示をできる/できない、しやすい/しにくいはさまざまな要因で決まってきます。先ほどお話ししたように、対面/非対面、顔が見える/見えないといったメディアチャンネルのこともそうですが、話す内容が趣味のことならいいけれど、プライベートなこと(例えば、障害の話題など)は話したくないといったことも関わってきます。

――お聞きしていると、「心理的安全性」の話が頭に浮かびます。誰に、どんな環境でなら言えるのかは、障害に限った話ではないのかもしれません。私は退路を確保できている環境でなら安心して話せます。

相羽:その人にとってやりやすい方法でやっていければいいと思います。ただ、障害の話をするなら、どうしても合理的配慮の問題が出てきます。

――合理的配慮を受けるには、障害者の側からのニーズを含めた意思の表明が必要ですからね。飯野由里子さんともお話ししましたが、自分のニーズがわからないと合理的配慮を得るのは難しいのではないでしょうか。

相羽:障害者差別解消法に意思の表明と書いてあるので、その難しさは実際にあります。なので、内閣府の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」【3の(1)エ】には、本人に意思の表明を求めることが難しい場合には、周囲の働きかけでニーズを把握して最適解と思われる合理的配慮を提供する旨の記述があります。これは障害者差別解消法ができたときからの基本方針なのですが、あまり知られていません。

――「自分で言えるようになりなさい」と大学の障害学生支援室などで指導された記憶があります。でも、なぜかわからないけれど、うまくいかないこともありますよね。

相羽:大学生になったら自分で意思の表明ができるよう求められるのは当然のことです。でも、一方で、「大学に入ってから障害に気づく」ことも少なくありません。大学は高校までよりぐっと自由度が高まるので、これまで困っていなくても視覚障害や聴覚障害で困ることがでてきます。また、それまで気づかずにいた精神障害や発達障害の問題が出てくる場合もあります。それでも、意思の表明ができるようにならないと社会に出たときに困りごとが増えてしまうのはは事実です。

――「この人には言えるけれど、あの人には言えない」など、ニーズを「言えない」問題は複雑で、難しいものがあると思います。そのなかで、大学での障害学生支援はどのように対策しているのでしょうか。

相羽:障害の開示範囲を明確に決めています。誰にどこまで開示するかについては、本人と障害学生支援室のスタッフ等がきちんと話し合い、決めていきます。ただ、設備を導入したり、高額な支援機器を買ったりという財政の問題があります。それに、大学はあくまでも修学支援なので、生活の支援は対象外となってしまいます。そのため、意思を表明しても対応できる範囲には限界があります。

「つながらない権利」のための課題整理

――「言わなければ隠せる」けれど、「言わないことで心身に負担がかかる」といった部分もあり、障害開示や合理的配慮は大学生活全般に大きく影響します。そこはどのように考えたらいいのでしょうか。

相羽:学校や職場での修学や就労に欠かせないコンプライアンスの問題と、プライベートな開示の問題は分けて考えた方がいいです。学校や職場での問題は厳密に法律に則っていくべきです。障害特性があって、何らかのサービスを受けないと生きにくい人々に対して情報が行き渡るようにする責任が障害者差別解消法や障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の上で求められていて、行政がやるべきことになっています。でも、雁屋さんのおっしゃる情報はそれとは違いますよね。

――私が考えているのは、今現在法律でカバーされていない部分ですね。「眼皮膚白皮症」(アルビノの医学診断名)とGoogle検索すると、難病情報センターのサイトが一番上に出てきます。そこにはどういう病気なのか、どんな経過をたどるのかなど、医学的な知見が示されています。でも、それを読んでアルビノの自分の将来像を思い描き、希望を持つことは難しいです。このように、生活に即した情報を得る方法が限られています。

相羽:生きるヒントともいえる情報は、なかなか難しいですね。障害のない人でも、インターネットで自分の知りたいことの答えにたどりつけないということは起こりうるのではないでしょうか。親になり、障害児が生まれたときにも同じ問題は出てきます。どうやって育てたらいいのか、病状は進行するのか、将来この子は働けるのか、結婚できるのか、遺伝するのか、と親はいろいろ考えます。病状や遺伝に関することは医学的に解明されている範囲では正解がありますが、なかには正解のない問題もあります。僕は、そこを分けていくべきだと考えています。

――病状の進行や遺伝は科学的根拠にもとづいた客観的な情報になりますが、就労や結婚については障害特性以外にもさまざまな要因が大きく影響します。そこはどうやって情報を充実させていけばいいのでしょうか。

相羽:アーカイブがあって、そこにアクセスすれば、ある程度の情報が得られるようにしてあるといいのではないでしょうか。例を挙げるなら、YouTuberになりたい人が、HIKAKINさんが自身の過去動画を批評している動画を観るような感じです。その情報が10年後も通用するかはわからないですが。それでも、正解がないなかで、ある程度の情報を得て自身でもトライ&エラーで試行錯誤しながら、経験を蓄積できることが必要ではないでしょうか。障害当事者にとっては、そうした情報を当事者団体が発信してくれると、「自分もやってみよう」という気持ちになれるのかもしれません。

(後編へ続く)

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著者略歴

  1. 雁屋 優(かりや・ゆう)

    1995年、東京都生まれ。生後数ヶ月でアルビノと診断される。高校までを北海道の普通校で過ごし、関東の国立大学理学部に進学、卒業する。卒業とほぼ同時期に発達障害の一つ、自閉スペクトラム症(ASD)とうつ病と診断され、治療しながら就職活動をする。病院勤務、行政機関勤務を経て、現在は札幌市を拠点にフリーランスのライターとして活動。科学、障害に関するインタビュー記事、ジェンダー、障害、セクシュアルマイノリティに関するコラムの他、さまざまな執筆業務を手がけている。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ、人とつながることを避けて通れないという逆説的ともいえる現状に疑問を抱いてきた。日本アルビニズムネットワーク(JAN)スタッフ。視覚障害者手帳4級、精神障害保健福祉手帳2級。

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