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マイノリティの「つながらない権利」

解決編 3.マイノリティのための運営や資金のあり方

 オンライン空間が活用できるにしても、マイノリティの「つながらない権利」を保障するには、運営する人や資金が必要だ。そのあり方にも気をつけなければ、マイノリティの方を向いた運営ができなくなってしまう。どのようなやり方が適切なのか、考えていく。

 専門家と当事者が協業して、情報を作る

 マイノリティの「つながらない権利」の実現のためには、提供される情報の正確性は不可欠な要素だ。しかし、医師をはじめとした専門家のみの情報発信では当事者の実情や知りたいことから離れてしまうリスクがある。当事者のみで何か発信しても、間違っていたり、誤解を招いたりする情報になってしまうかもしれない。

 現状、専門家は専門家で、当事者は当事者で別々に情報を作っているケースが散見される。それを協業して情報を作っていく形にすることで、正確性もあり、当事者のニーズに即した情報を作れるのではないか。

 

 専門家の専門性にただ追従する権威主義ではなく、マイノリティ性とともにある当事者の専門性も尊重していければ、手を取り合うことは可能だろう。マイノリティに関わる専門家も、情報が錯綜する現状をよしとしているわけではない。

 マイノリティによっては、専門知への不信もあるだろう。調査や研究を名目にひどい扱いをされた当事者はその経験を決して忘れない。不信を払拭する努力は専門家の方でやるべきだ。

 それでも、専門家の手は必要だ。

 科学への信用の低さを市民の知識のなさによるものとし、権威主義的に知識を流しこもうとする欠如モデルに陥らずに当事者はじめ市民とコミュニケーションしようとする専門家、そして専門家と当事者をつなぐサイエンスコミュニケーター、自身の経験の価値を信じ新しいことを知っていきたいと願う当事者。この三者がマイノリティの「つながらない権利」の実現を目指しての情報作りに欠かせない。

 運営は利益の出ないこともやれる形で

 では運営はどういう団体、あるいは人が行うべきなのか。

 難病の人々を取り巻く現状を改善するビジネスプランを口にすると言われる定番の台詞がある。「それ、利益出るの?」だ。

 利益は大事だ。霞を食べて生きていけるわけではない。人が時間と労力をかけるならば対価は必要で、そのために利益は必要不可欠だ。

 でも、利益が出なくてもやるべきことが存在する。それがマイノリティの「つながらない権利」の保障に関わるサイエンスコミュニケーションだ。

 マイノリティは少数派と和訳されることもある通り、基本的にその数は少ない。市場原理との相性は悪い。利益が出なくても、たった一人のマイノリティを救うことができるならやるべきという判断も可能な形態で運営しなくてはならない。マイノリティの「つながらない権利」はマイノリティのなかでも周縁化され、後回しにされてきた人のためのものだ。そこは譲れない。

 

 どうやったらそんな運営が可能なのかは模索中だが、利益になるか否かではなく、その活動に価値があるかで考え、進んでいける運営方法は外せない要素だ。

 公的資金と事業収入で独立性を確保

 当然、資金の話は外せない。人はどうしても出資者の方を向いてしまう傾向がある。お金を出してもらっていると思えば、意見も言えなくなる。そんな状況はありふれている。

 では、完全に自己資金でやるべきか、というとそれも違う。そもそも、本来マイノリティの「つながらない権利」は公的に権利として保障されるべきものなのだ。公的な資金もなく、自助努力でやるのはおかしい。

 資金源は公的な資金と情報発信を軸としたサイエンスコミュニケーションによる事業収入を柱としていくのがいいだろう。公的な資金は一定の割合までで運営する。マイノリティの方を向き続けるサイエンスコミュニケーションであるためには、未だ差別の残る公的機関の意向を聞きすぎず、また、運営が間違えた場合にそれを検証しやり直せるような、独立性と風通しのよさが必要になってくる。

 とんでもない難題に違いないが、実現すれば、マイノリティの状況は大きく改善する。

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著者略歴

  1. 雁屋 優(かりや・ゆう)

    1995年、東京都生まれ。生後数ヶ月でアルビノと診断される。高校までを北海道の普通校で過ごし、関東の国立大学理学部に進学、卒業する。卒業とほぼ同時期に発達障害の一つ、自閉スペクトラム症(ASD)とうつ病と診断され、治療しながら就職活動をする。病院勤務、行政機関勤務を経て、現在は札幌市を拠点にフリーランスのライターとして活動。科学、障害に関するインタビュー記事、ジェンダー、障害、セクシュアルマイノリティに関するコラムの他、さまざまな執筆業務を手がけている。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ、人とつながることを避けて通れないという逆説的ともいえる現状に疑問を抱いてきた。日本アルビニズムネットワーク(JAN)スタッフ。視覚障害者手帳4級、精神障害保健福祉手帳2級。

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