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虚弱フリーランスの方法論

第15回 虚弱がフリーランスしかなくなってしまうのは自己責任か(2)

 病気や障害を抱える「虚弱」だから、安定した労働を提供する被雇用者ではなくフリーランスになるほかない。フリーランスでたくさん稼ぐには、積極的に人と交流することのできる健康が必要。一見矛盾するこの状況のなかでどのように生きていくか――。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ人とつながることを避けて通れない、という逆説的現状に一石を投じた著書『マイノリティの「つながらない権利」』で話題を集めた気鋭の著者・雁屋優さんが、ご自身の経験をもとに「虚弱」な人がフリーランスとして生きていくための実践的方法論を提案します。


出社回帰で虚弱は消えるしかなくなる

 2020年頃から始まった新型コロナウイルスの感染拡大で、リモートワークを行う企業は増えた。大規模なオフィスを縮小したりオフィスそのものを売却したりした企業まで存在した。しかし、新型コロナウイルスと共存しながら生きるウィズコロナに移り変わった2026年現在においては、出社回帰が進んでおり、週5日出社の企業も多くなっている。一方、コロナ禍にオフィスを縮小や売却した企業は少し状況が異なっている。富士通やリコーでは現在もリモートワーク中心だが、LINEヤフーでは原則週3日以上の出社を基本としている。

 対面とリモートの比較では労働生産性や社員同士のコミュニケーション、イノベーションの創出なども評価指標として使われるが、私はそれらの専門家ではないため、虚弱な人々を包摂する点で出社回帰がどのように問題なのか考えていく。

◇ ◇ ◇

 出社回帰の問題点として真っ先に挙げられるのが、長時間や過密な環境での通勤によるストレスだ。満員電車に乗って通勤するのは健康な人であっても疲れるし、何より時間がかかる。リモートワークならば、数分でオフィスにログインできるが、通勤ではそうもいかない。これが障害者や病者、虚弱な人々にとってどれほどの負担になるかは言うまでもない。2020年時点で作家の乙武洋匡がnoteでこの件に言及しているが、障害者や病者を置き去りにして出社回帰していく現在を予見したかのような文章だ。コロナ禍から現在までの動きは社会が健常者のことだけを考えて作られている絶望的な証拠といえる。

 とはいえ、先に挙げた富士通やリコーのようにリモートワーク中心の企業のほか、東京都庁や一部自治体でもリモートワークは行われている。合理的配慮としてリモートワークを希望し、無理なく働く道はコロナ禍以前よりも開かれている。

 また、車いすでの移動も以前よりは楽になっている。駅員に頼んでスロープを毎回設置してもらうのではなく、ホーム側にスロープがあり、そのまま車いすやベビーカーで乗車できる形も導入が進んでいる。都営大江戸線や都営三田線では基本的に全駅で対応可能になっている。また、一部の駅に導入している路線に範囲を広げれば主要路線も多く確認できる。これによって、利用路線や移動経路次第で車いす利用者でも移動時間をある程度予測できる。

 ただし、駅のエレベーター設置数の少なさやバスと電車での事情の違いなどもあり、車いすであっても健常者同様に時間通りに通勤ができるといえる状況ではない。また、移動が容易になったからといって、虚弱な人々が通勤で健常者よりも大きく負担がかかることに変わりはない。

◇ ◇ ◇

 虚弱だから皆リモートワークが必要と言いたいのではない。病状や身体条件に合わせてリモートワークの選択肢があることが大事なのだ。虚弱でも週に2日は通勤して外に出るのが体調によい人もいるだろう。また、週5日の出社であっても、時差通勤なら出社できる人もいるかもしれない。そうした個別の事情にどこまで対応できるのかが、虚弱の働きやすさを決める。

 間違いなく言えるのは、週5日出社を義務付けた途端、その職場から虚弱な人々は排除されるということだ。特に、採用時にはリモートワークを想定していた人々は離職するしかないだろう。労働条件について争うことも理論上は可能だが、協議中にリモートワークができなければ協議の間に体調を崩してしまう。

 出社回帰は虚弱を離職に追いこむリスクがある。一律に出社回帰を命じることは、意図がなかったとしても、基準通り出社できない人への退職勧奨そのものの行為なのだ。

◇ ◇ ◇

 労働生産性などの研究においては、職種や業種、部署ごとの対応はあるが、出社とリモートのハイブリッドが労働環境としてよいのではないかといわれている。もちろん、社内コミュニケーションの再設計、出社の意義の再定義など、考えるべきことはたくさんある。それでも、対面かリモートかの二択ではないのは明白だ。

 出社回帰が合理的な選択になる企業や業種、職種があるのは事実だ。とはいえ、すべての出社回帰が、すべての企業や労働者にとって合理的なのだろうか。単にコロナ禍以前に戻ったといって喜ぶのではなく、それぞれに無理のない働き方を模索する必要がある。

◇ ◇ ◇

 労働生産性の専門家ではないが、対面での仕事に比べてリモートワークが格段に劣っているとは私は感じていない。私は新型コロナウイルス感染拡大のオンライン導入期に文筆業を始め、北海道にいながらにして記事や書籍を書き上げた。対面であれば相手の表情から意図を読める前提が生じてしまうが、リモートワークにおけるテキストコミュニケーションでは文面がすべてである。インタビューは対面で行う方が適しているものもあるが、ビデオ通話で問題なく行えるものもある。

 現在の私は出勤する仕事もしているが、出勤するからこそできることがあるのも理解している。自分に合った頻度での出勤は元気をくれる効果もある。

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 一律に決めるのではなく、選択肢を用意すること。選択肢を用意できない場合はそれも明記して求人を出すこと。そうすれば、虚弱な人々も職場にい続けられるかもしれない。


参考文献・webサイト

「2026年は週5出社が約半数。出社回帰の現実と理想のギャップ」2026年4月27日 Forbes JAPAN https://forbesjapan.com/articles/detail/96192

「出社回帰は本当に進んでいる!数値データや理由、事例まで解説」2026年6月4日Cotra https://www.transcosmos-cotra.jp/return-to-the-office

「2026年 出社に関する実態調査」2026年4月13日 Job総研 https://job-q.me/articles/16333

「44歳を迎えた私から、みなさんへのお願い。」2020年4月6日 乙武洋匡note https://note.com/h_ototake/n/n421eb8211e0a

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著者略歴

  1. 雁屋 優(かりや・ゆう)

    文筆業/研究者志望。主に医療・科学領域で研究や執筆を行う。
    茨城大学理学部卒業。北海道大学COSTEP(科学技術コミュニケーター養成プログラム)修了。
    単著『マイノリティの「つながらない権利」』(明石書店、2025年)ほか、論考「家族をつくる選択肢を緩やかに確実に奪う構造の解剖:障害者グループホームの制度設計から見る優生思想」(『季刊福祉労働176号』現代書館、2024年)や『障害のある10代のための困りごと解決ハンドブック』への寄稿などがある。

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