第8回 最初は成果物やサンプルを持って営業
病気や障害を抱える「虚弱」だから、安定した労働を提供する被雇用者ではなくフリーランスになるほかない。フリーランスでたくさん稼ぐには、積極的に人と交流することのできる健康が必要。一見矛盾するこの状況のなかでどのように生きていくか――。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ人とつながることを避けて通れない、という逆説的現状に一石を投じた著書『マイノリティの「つながらない権利」』で話題を集めた気鋭の著者・雁屋優さんが、ご自身の経験をもとに「虚弱」な人がフリーランスとして生きていくための実践的方法論を提案します。【毎月第1・第3・第5火曜日更新予定】
準備が済んだところでいよいよ実践編に入る。まだ準備ができていないのではないかと不安に思う気持ちもあるだろうが、ある程度準備したら動き出してしまおう。万全の準備を待っていたら人生が終わってしまいかねない。
基本的にフリーランスになったばかりの頃は知名度もなく、待っていても仕事は来ないので、営業して仕事を取りに行く。営業といっても、体力を使ってクライアント候補をたくさん訪問するだけが営業ではない。自分から会いに行く形の営業も重要だが、そんな体力があれば、この連載は必要ないだろう。
以下のように、営業にもいろいろな形がある。
1. 事業内容や成果物が一目でわかるサイトを作成(個人サイトのほか、Xforio(クロスフォリオ)、noteなど)
2. 店舗がある事業内容なら店の看板やチラシなどでの宣伝
3. 成果物を販売する場や商談会、交流会に出てみる
4. 自分の事業に最適なSNSを選んで公式SNSを開設し、無理なく更新を続ける
5. インターネット上や業界誌で行われている募集(公式サイトから採用担当者のSNSなど)に応募してみる
実際、私も自室から行える営業で仕事を獲得してきた。事業内容や成果物はnoteやSciBaco.net(サイエンスコミュニケーションに関わる人材を探せるサイト)にまとめてあり、インターネットを通して出版社にコンタクトを取って、コロナ禍にはオンラインのみで完結させた仕事も多い。
参考:雁屋優の事業内容をまとめたサイト
note https://note.com/yu_kariya_write
SciBaco .net https://scibaco.net/profile/4186
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オンラインや対面の交流会や商談会の場に顔を出すようになったのは、実はかなり最近だ。とはいえこうした場は疲労も大きいため、半年に一度くらいにしておこうと自分なりの制限を設けている。文学フリマで自主制作のZINEを頒布するのも広義の営業に含まれる。商業出版を目指していたが叶わなかった企画を自主制作で実現したり、このような依頼も対応可能と成果物で示したりする機会になるからだ。
フリーランスの営業において大事なのは、何ができるかを明確にすることだ。どんなことができるかもわからない人に発注はしない。だからこそ、何ができるかの説明、サンプルや過去の成果物、そして料金表(相場がわかれば詳細は契約前に詰める形でも可)が欠かせない。
フリーランスは営業も会計も自分でやらなければならないが、そのすべてを自分のやりやすい形に最適化できるのだ。これが被雇用者ではそうもいかない。電話が苦手でも電話をかけなければいけない、疲れやすいのにクライアントに頻繁に会いに行かなければならないなどの事態は発生する。
最低限の礼儀は必要だが、初対面の人とすぐに打ち解ける、いつでも会いに行くなどは必須ではない。それよりも見せられるサンプルや成果物が重要だ。
私は正規雇用で働いた経験がなく、最初の頃は企画書を書くのが本当に下手だった。今読み返しても頭を抱える出来だ。なのでサンプルとして見せる文章を書いた。書籍企画なら序章や第1章を、記事ならば本文を書いて、それを見せて営業するのだ。企画書がどれほど下手でも最終的な成果物は文章なのだから、それを見て判断してもらえばいいと考えた。企画書も上手に書けた方がいいのも事実だが、下手でも道は絶たれない。そうして初の単著『マイノリティの「つながらない権利」』が刊行できた。なお、サンプルを作ることで企画書の出来も少しましにできる側面もある。実際に手を動かすからこそ見えてくる景色もあるからだ。
できることをやって目標に近づいていく。方法は想像以上に多岐にわたる。私がここに書いている以外のやり方もある。あれこれ探して試して自分なりの方法を見つけてみてほしい。
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また、営業で今すぐに案件を獲得する必要はない。名刺やサンプルを渡して何ができる人なのか覚えてもらうのも大切だ。少し経って相談が来るケースもある。
さらに私は新入社員研修を受ける機会もなくマナーに自信がなかったため、そうした書籍を一冊買ってファーストコンタクトの前に辞書のように確認している。業種にもよるだろうが、スーツを用意する必要はほとんどないと言っていいだろう。私は学会に出席できるかどうかを一つの基準として、クライアント訪問時の服を選んでいる。
対談イベントに来てくれたり成果物の感想などを送ってくれたりした出版関係者にはお礼とともに企画書を添えて連絡を取ることもある。営業の意識はあまりなくこの回を書くまで気づかなかったが、これも受注につながっている。
エネルギーに溢れていなくても、営業はできる。やりようはある。
まずは自分の事業内容を発信するところからだ。発信しなければ見つけてもらえない。大きく派手にやらなくてもいい。でも確実にここにいる、こうしたことができる、と発信するのだ。
基本的に無名、それも有力な資格のないフリーランスは怪しまれると思っておこう。だからこそ成果物や企画を見せる必要がある。実績や成果物、企画が何よりの名刺となってあなたの事業を説明してくれる。
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公式SNSの更新や交流会などへの出席は無理しないことだ。公式SNSを毎日更新できるのは理想だが、それができない可能性が高いのが虚弱なのだ。予約投稿や自分なりの頻度を決めて、ある程度定期的に更新するように設計するのがいい。交流会などへの出席は元気があったら、あるいは興味のあるテーマなら、くらいでいい。私はたまに違う空気を吸いたくなったら興味のある交流会を見つけて行ってみる形にしている。予想外の出会いもストレスになるので、頻度は自分に合わせて調節しよう。忘れがちだが、楽しいこともストレスの要因になってしまう。とはいえ、魅力的なイベントや交流会があまりにも多くて、行きたい気持ちと自分のリソースの折り合いをつけるのが意外と大変だ。
無理はいけない。営業は今すぐ実るものばかりではないのだから。
