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虚弱フリーランスの方法論

第14回 虚弱がフリーランスしかなくなってしまうのは自己責任か(1)

 病気や障害を抱える「虚弱」だから、安定した労働を提供する被雇用者ではなくフリーランスになるほかない。フリーランスでたくさん稼ぐには、積極的に人と交流することのできる健康が必要。一見矛盾するこの状況のなかでどのように生きていくか――。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ人とつながることを避けて通れない、という逆説的現状に一石を投じた著書『マイノリティの「つながらない権利」』で話題を集めた気鋭の著者・雁屋優さんが、ご自身の経験をもとに「虚弱」な人がフリーランスとして生きていくための実践的方法論を提案します。


 長時間労働が虚弱を排除する

 虚弱な人々がフリーランスをやっていく方向性について考えてきた本連載だが、改めてここで虚弱がフリーランスを選ぶしかなくなる状況についても考えたい。虚弱だからフリーランスを選ぶしかないのは健全な自己決定とはいえない。では、それを阻害しているものは何なのか。

◇ ◇ ◇

 労働環境の問題は数多くあるがなかでも労働時間の長さはかなり大きな問題といえる。日本社会では、一日8時間の労働が労働時間の上限ではなく、最低ラインになってしまっている。求人サイト、それも障害者雇用を専門に扱うサイトですら、求人検索時の合理的配慮の項目に残業ゼロの配慮などと書いている始末だ。残業を前提にしていなければ、そもそもそんな項目にチェックを入れる必要などなく、全求人が残業ゼロであるはずなのだ。心身の機能の脆弱性、つまり障害者は労働者として明らかに健常者より弱い。それは座位を保持できる時間であったり、同じ情報処理をした後の疲労の程度や回復に要する時間であったりするだろう。そしてそれは長時間労働の困難さに行き着く。障害者手帳や障害年金の審査では心身の機能が健常者よりどの程度失われているかを詳細に調べるのに、障害者雇用になった途端、行政も雇用主も障害者の心身の脆弱性を忘れ去ってしまう。

 こう書くと、時短勤務の申請で解決するのではないかと指摘されるかもしれないが、原則を忘れないでほしい。そもそも、健常者を想定した労働時間の規定において、一日8時間は最低ラインではなく上限であったはずだ。やむなくその上限を超えた場合は残業代として割増賃金を支払うが、残業時間にも制限がある。健常者の労働においても、通常一日8時間以内であるべきなのだ。まして心身の脆弱性が認められて障害者として労働する人々に、健常者と同じ労働時間を課す科学的根拠や合理性がどこにあるだろうか。障害者雇用において、労働時間の上限は一日8時間未満かつ残業をさせないのは合理的配慮ではなく最初からそこにあるべき標準仕様だ。

 しかし、現実は健常者も障害者も残業するのが当然となっており、現行の労働法規を厳格に運用してすらいない。何度も言うが、残業は当然ではない。割増賃金を支払うから特別に許されているだけだ。個人的にはこの割増賃金も時間内の2倍以上にして、残業を避ける機運を作るべきだとも考えているが、それは一旦置いておく。

◇ ◇ ◇

  現行の労働法規を厳格に運用しなければならないのは言うまでもないが、その前に現行の労働法規の基準が科学的にも合理的なのかも考えてみたい。

 Utzetらによる給与を減らさず総労働時間を10〜25%減らした15研究・16介入をレビューした論文では、給与を維持して労働負荷を短時間にした分圧縮せずに労働時間を週30〜35時間程度まで短縮すると、ワーク・ライフ・バランス、睡眠やメンタルヘルスなどの健康、ウェルビーイングを改善する可能性があるとの結論が出ている。

 週30~35時間の労働でも虚弱な人々を包摂するには至らないだろうが、少なくとも週40時間を最低ラインとして残業を当然のように課す現状よりも被雇用者となれる虚弱な人々が増えるのは間違いない。

 しかもこの話は一般的な労働者、つまり健常の労働者の話なのだから、これを基準に採用するならば、障害者雇用では週30~35時間よりもさらに少なく上限が設定される必要がある。個々の障害の程度などで変わってもくるだろうが、週20~25時間程度を障害者雇用の基準として、本人の障害の状況や希望で細かく調整する形にするのも考えられる。

 虚弱な人々も週20~25時間なら働けるかもしれない。この数字を見て、これが採用されれば就労継続支援A型事業所で働いている人にも一般就労の道がより開かれる可能性に思い至った。

 就労継続支援A型事業所は週20時間以上働ける必要があるように思われているが、2018年の制度改正、2022年の厚生労働省の説明によると「就労継続支援A型事業所の利用者は週20時間未満か否かにかかわらず、本人の希望に応じた労働時間・労働日数で就労可能」となっている。ただし、雇用保険加入の条件が週20時間以上の所定労働時間となっているため、実際には週20時間の労働を求める事業所も存在し利用者にもそのように認識されている。しかし、雇用保険の加入条件が2028年10月から週10時間以上に引き下げられることになっているため、今よりは雇用保険の条件を気にせずに就労継続支援A型事業所で働ける可能性が広がる。

 障害者雇用での一般就労においても、健常者の労働時間とは別に、労働時間の上限を週20~25時間以内に設定する、残業は禁止とするなどの別の規定を作れば、長時間労働が困難で雇用されることを諦めざるを得ない虚弱な人々はかなり減るのではないか。

◇ ◇ ◇

 逆に言えば、現行の健常者基準の労働法規、そして残業が常態化した運用は虚弱な人々を労働から排除している。それは虚弱な人々の損失でもあるが、市場や社会全体の損失にもなりうる。多様な視点を持つ人々が企業や行政の意思決定に関わることでよりよいプロダクトが生まれるのは既にDE&Iの文脈で言われているが、それだけではない。虚弱な人々が社会にいること、その人達にも社会を動かす力があることを示せる。それはいつか虚弱になる健常者にも、心身が衰えても望めば社会に働きかける方法を失わずにすむという希望になるのではないか。

 

参考文献

Utzet, M., Soler, M., Ramada, J. M., Menéndez, M., Silva-Peñaherrera, M., Benavides, F. G., & Serra, C. (2026) “Exploring the health and well-being benefits of reduced working hours with maintained salary: A scoping review and evidence map,” Scandinavian Journal of Work, Environment & Health, 52(2), pp.125–138. https://doi.org/10.5271/sjweh.4266

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著者略歴

  1. 雁屋 優(かりや・ゆう)

    文筆業/研究者志望。主に医療・科学領域で研究や執筆を行う。
    茨城大学理学部卒業。北海道大学COSTEP(科学技術コミュニケーター養成プログラム)修了。
    単著『マイノリティの「つながらない権利」』(明石書店、2025年)ほか、論考「家族をつくる選択肢を緩やかに確実に奪う構造の解剖:障害者グループホームの制度設計から見る優生思想」(『季刊福祉労働176号』現代書館、2024年)や『障害のある10代のための困りごと解決ハンドブック』への寄稿などがある。

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