第4回 使える社会保障は全部使う
病気や障害を抱える「虚弱」だから、安定した労働を提供する被雇用者ではなくフリーランスになるほかない。フリーランスでたくさん稼ぐには、積極的に人と交流することのできる健康が必要。一見矛盾するこの状況のなかでどのように生きていくか――。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ人とつながることを避けて通れない、という逆説的現状に一石を投じた著書『マイノリティの「つながらない権利」』で話題を集めた気鋭の著者・雁屋優さんが、ご自身の経験をもとに「虚弱」な人がフリーランスとして生きていくための実践的方法論を提案します。【毎月第1・第3・第5火曜日更新予定】
虚弱だけどフリーランスで少しでも自分のお金を稼ごうとしているのに、社会保障の話が始まるのを不思議に思う人もいるかもしれない。いや、欠かせないことと実感を持って頷く人が多いだろうか。
フリーランスを始めてすぐ事業収入だけで生活できるようになる人はまずいない。いたとしても稀な事例か前職の仕事をフリーでやっているケースなので、惑わされてはいけない。今までの働き方が自分に合っていなかったことも現在の虚弱を作る要因なのだから、以前のようにやろうとするのは悪手だ。前は元気だったのにと思った経験は私にもあるが、過去には戻れない。虚弱を自覚する以前の3割や半分程度のエネルギーでやりくりするほかない。虚弱はその人のせいではないが、この事実は動かないのだ。社会や他人があなたのエネルギー不足を責めても、あなただけは自分を責めないでほしい。
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前置きが長くなった。社会保障の話をしよう。失業中、就業経験なし、学生など虚弱といっても状況は多岐にわたる。状況にかかわらず共通しておすすめするのは障害者手帳や指定難病医療費助成、精神科の自立支援医療受給者証の取得、そして家事の援助、生活の介助が必要な場合は障害福祉サービス受給者証だ。
巷には「等級の低い障害者手帳なんて持っていても意味がない」などというデマが流れている。等級が低かろうと、税金の障害者控除は発生する。控除額とは税金を課す際に見られる金額をそれだけ減らすことを意味する。所得税や住民税、相続税に適用されており、障害者手帳を持っていれば所得税では最低でも27万円の控除が受けられる。大まかに言うと27万円所得を少なく見て税金が計算される。また、これは障害が重複していたり重度であったりすると控除額も大きくなる。
障害者を扶養している人にも障害者控除は発生するので、誰かの扶養に入っている方も障害者控除を使うと少しは暮らしと気持ちが楽になるだろう。私も療養で経済的に実家に頼りきっている時期に、障害者控除があって心が救われた経験がある。障害者手帳を持っていた時期であれば遡って手続きできるケースがあるので、障害者手帳を取得していたが障害者控除を使っていなかった人は税務署に問い合わせてみよう。私の実家では障害者控除で出た還付金の一部でいいお肉を買ってきて焼肉をした記憶がある。負担をかけている申し訳なさがほんの少しだけましになったので、療養している人と扶養している人双方が楽しめる何かに使うのも選択肢の一つだ。
虚弱で移動や芸術鑑賞どころではないこともあるだろうが、クリエイティブな事業のためのインプットや出張でも障害者割引は役に立つ。何より困難があると証明しやすいので、生活も多少ましになる。
病名や症状の問題で障害者手帳の取得が難しく難病患者である場合は、指定難病医療費助成の受給者証もしくは指定難病登録者証を申請しよう。まだまだ不十分ではあるが、障害者手帳取得と同等の支援を受けられるように国や地方自治体が動いている。東京都が難病患者向けの職員採用を行うと発表したり既に行っている自治体も見られたりするなど、嬉しい動きも確認されている。難病患者にどれほどの合理的調整が行われどれほどの給与なのかが見えてこないが、人によってはそれがフィットするだろう。重症に分類されるなどして医療費助成の対象ならば、その疾患で病院にかかる際の医療費がぐっと安くなる。
精神科に通院している人は自立支援医療受給者証の取得も欠かせない。病院や薬局、訪問看護の自己負担が上限額までの原則1割負担になる。自治体によっては低所得者にはこの1割も負担してくれるので、ぜひ活用してほしい。
税金や医療費が安くなる制度を使い、生きているだけで発生する負担を減らす。虚弱な人が自分で生きていくための第一歩だ。
日々家事を終わらせるので精一杯、働いていたら家事もできず寝るだけになってしまう、介助してもらう必要があるなどの場合は障害福祉サービス受給者証もお忘れなく。障害者手帳がなくても障害福祉サービス受給者証は取得できるので、気軽に申請しよう。
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それから、もらえるお金だ。障害年金、傷病手当、失業手当などがある。
障害年金はかなり厳しい障害認定基準だが、それだけでは暮らしていけない。それどころか、生活費の足し程度の金額であり生存を保障する額ではない。だが、支給されれば障害年金と事業収入を合わせて暮らしを成り立たせる道も見えてくる。申請の手間や基準の厳しさに心が折れそうになるが、ある程度エネルギーが溜まったらやってみる価値はある。
就業中に体調を崩した方は傷病手当や失業手当を受給できる場合がある。加入している保険者やハローワークに確認しよう。この時点で障害者手帳があると失業手当の受給条件がよくなるので、あるなら提示しておこう。
また、民間保険に加入している人は何らかの手当を申請できることもあるのでそこも確認を。元から虚弱だと入れる民間保険も限られてきたり条件付きの加入になったりするので厳しい現実だが、あるのなら全部使って生きよう。
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社会保障ではないが、不動産収入や投資信託、親の遺産といったいわゆる不労所得の扱いについても書いておく。この連載で大切にしたいのは、虚弱なあなたの経済的自立である。自分ですべてを稼ぐことのみを目指していない。しかし金銭を使って誰かに支配されるのは最も避けたい事態だ。
なので、こうしたものが見込める場合、相手の気分次第でもらうお小遣いではなく、あなた自身の財産にする必要がある。不動産の名義、投資信託に使う口座の名義などをあなたにしておき、相手の気分を損ねたとしても奪えないようにしておくのだ。また、財産を譲ったことを盾に何か要求されても、そのような契約が法的に(気持ちではなく、法的拘束力の問題)成立していない限り無視していい。できない、やりたくないことを引き受ける必要はない。
逆に言えば、相手の気分次第であなたを脅かせる形式でしか援助しない人からは離れるべきだ。それは経済的支配でしかない。
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そうしたものがなく、明日を生きるのも危うい場合は生活保護を申請しよう。生活保護を受けるのは国民の権利と厚生労働省や自治体もようやく言い始めた。まず生きて、休んで、ゆっくり慎重に動き出す。そのための生活保護だ。
ただ、生活保護から自立していくときには働き損になってしまう時期がどうしてもある、就労以外の自立(フリーランスなど)を想定していないシステムなど、使いづらさは否めない。無理解なケースワーカーに就労を勧められることもあるかもしれない。そんなときは状況を話したり主治医の意見書を提出したりして交渉する、それでもダメなら支援団体の手を借りよう。医師の意見書や診断書を見てもなお無理に就労をさせようとすることはあまりないはずだ。あるとすればかなりの異常事態とみていい。
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ささやかでも経済基盤ができてくると少しずつ余裕が生まれ始める。そこで見えてくるものもある。
