明石書店のwebマガジン

MENU

虚弱フリーランスの方法論

第1回 就労支援も障害者雇用も「安定した勤務」が必要

 病気や障害を抱える「虚弱」だから、安定した労働を提供する被雇用者ではなくフリーランスになるほかない。フリーランスでたくさん稼ぐには、積極的に人と交流することのできる健康が必要。一見矛盾するこの状況のなかでどのように生きていくか――。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ人とつながることを避けて通れない、という逆説的現状に一石を投じた著書『マイノリティの「つながらない権利」』で話題を集めた気鋭の著者・雁屋優さんが、ご自身の経験をもとに「虚弱」な人がフリーランスとして生きていくための実践的方法論を提案します。【毎月第1・第3・第5火曜日更新予定】


 虚弱フリーランスの方法論に入る前に、他の方法がなぜ「虚弱」な人々に難しいのか検討する。

 障害者雇用も障害者向けの就労支援も、制度の趣旨やシステムから既に無理がある。病や障害があることやそれらによる不安定な体調、つまりは「虚弱」が何なのか、まるでわかっていない。あるいはわかっていてあえてやっているのか。

 厚生労働省は、障害者雇用により共生社会の実現、労働力の確保、生産性の向上を期待できるとしており、2024年6月1日時点で実雇用率(常用雇用労働者に占める、障害者である労働者の数)は2.41%、障害者雇用率達成企業割合は46.0%と発表している。障害者雇用には法定雇用率が設定されており、労働者40.0人以上の事業主は障害者を雇う義務がある。法定雇用率に満たなければ、事業主はそれに応じた納付金を支払うというペナルティが課される。ちなみに当時の民間企業における法定雇用率は2.5%に設定されていた。なお、2026年7月には法定雇用率が引き上げられ、民間企業では2.7%となる。

 諸外国を見てみると、法定雇用率、実雇用率、達成状況は以下の通りである。なお、障害認定基準や対象となる労働者の基準はそれぞれ異なっている。(参考:「諸外国の障害者雇用促進制度について」令和7年4月14日 厚生労働省職業安定局

ドイツ……法定雇用率5%、達成企業割合38.5%(雇用義務のある使用者178,690中、68,850が達成。2022年時点。)

フランス……法定雇用率6%、実雇用率3.6%、達成企業割合31%(2023年)

アメリカ……法定雇用率

      連邦政府12%(うち2%は重度障害者)

      連邦政府の請負業者及び下請け業者7%

イギリス……法定雇用率制度は効果がなく廃止。(※政府は2017年から2027年までに障害者の就業数を100万人増やすと公約し2022年に既に達成されたため、2030年までにさらに100万人の障害者雇用を増やす目標を設定。)

 雇用率を設定して障害者雇用を促進するやり方の有効性は検討の余地はあるが、日本の法定雇用率は諸外国に比べて不十分な数字といえる。

 しかし、虚弱な人々にとって重要なのはそこではない。法定雇用率の対象が問題だ。法定雇用率にカウントされるのは障害者手帳(身体・知的・精神)を持っていて、週所定労働時間が一定を越える労働者のみである。

重度障害者(身体・知的障害)/精神障害者……10時間以上

重度ではない身体・知的障害者……20時間以上

 こうして見ると、案外短時間労働に対応しているように見える。しかし、週所定労働時間とは就業規則や雇用契約で定められた実際の労働時間なので、毎週安定してこの時間数働かなければいけない。それが日常的に可能でなければ、雇用契約が機能しない。また、法定雇用率の算定方法や実務を考えると、短時間の労働者をたくさん雇うよりも週所定労働時間20時間以上の人を雇う方が効率的になってしまう。つまり、安定して週に20時間以上働けないと、障害者雇用での就労も難しい。さらに実際の求人を見てみれば、週40時間、30時間の労働を求める障害者雇用に溢れている。それができる障害者はどれほどいるのだろうか。「虚弱」ではリモートワークやフレックスタイムを活用しても、週40時間どころか、20時間以上安定して勤務できる人はどれほどいるのだろう。

 また、日本の障害認定基準は諸外国と比較しても厳しく、医学モデルに基づいている。そのため、海外であれば軽度障害者とされる人が日本では障害者手帳を取得できなかったり、難病ではあるが障害者手帳を取得できなかったり、病名が確定しない「虚弱」では障害者とされなかったりする。障害者手帳のない難病患者や「虚弱」は障害者雇用の枠に入ることすらできない。一部自治体では障害者手帳のない難病患者を対象にした選考枠を作る取り組みがされているが、国主体の取り組みは遅れている。病名がない、病名があっても障害者手帳を取得できない、障害者手帳を持っていても週20時間以上安定して働けなければ、障害者雇用の場にすらいられないのが現状だ。

◇  ◇  ◇

 障害福祉サービスのなかに就労系と呼ばれる一群がある。障害者手帳を持っていなくても障害福祉サービス受給者証を取得できれば利用できるため、難病患者や「虚弱」の人も支援を受けられる。しかし、就労支援の目指す出口は障害者雇用の枠で雇用されることに設定されている。他の選択肢を想定し始めている事業所もあるが、制度設計がその目標を変えていない以上、大きな効果は見込めない。最初はごく短時間から始められても目指す先は障害者雇用なので、最終的に労働時間を延ばさなくてはいけない。

 また、就労継続支援B型事業所では最低賃金を下回ることが法律で許可されており、雇用契約でない分働く時間を調整しやすいが、生活できるほどの収入には到底ならない。障害年金と合わせても、B型事業所での収入では自分で暮らしていけない。B型事業所に通っていても生活保護制度を利用しなければ生活が成り立たないのだ。

◇  ◇  ◇

 安定して所定の時間の勤務を行えないなら雇用の場に居場所はない。これが現状の結論だ。労働環境の問題は数多く、障害者以外に求められる労働時間もあまりに長すぎる。しかし、雇用契約の形を取る以上、短時間労働での対応にも限界がある。雇用契約は定められた時間、指定された業務を行うことを約束するものだからだ。フリーランスの場合は業務委託契約になるが、これは成果物の納品を約束するもので稼働時間や稼働時間帯を指定するものではない。そこに「虚弱」な人々の希望がある。

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 雁屋 優(かりや・ゆう)

    文筆業/研究者志望。主に医療・科学領域で研究や執筆を行う。
    茨城大学理学部卒業。北海道大学COSTEP(科学技術コミュニケーター養成プログラム)修了。
    単著『マイノリティの「つながらない権利」』(明石書店、2025年)ほか、論考「家族をつくる選択肢を緩やかに確実に奪う構造の解剖:障害者グループホームの制度設計から見る優生思想」(『季刊福祉労働176号』現代書館、2024年)や『障害のある10代のための困りごと解決ハンドブック』への寄稿などがある。

関連書籍

閉じる