明石書店のwebマガジン

MENU

虚弱フリーランスの方法論

はじめに 「ふつうに」働いていたら働くだけの人生になってしまう

 病気や障害を抱える「虚弱」だから、安定した労働を提供する被雇用者ではなくフリーランスになるほかない。フリーランスでたくさん稼ぐには、積極的に人と交流することのできる健康が必要。一見矛盾するこの状況のなかでどのように生きていくか――。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ人とつながることを避けて通れない、という逆説的現状に一石を投じた著書『マイノリティの「つながらない権利」』で話題を集めた気鋭の著者・雁屋優さんが、ご自身の経験をもとに「虚弱」な人がフリーランスとして生きていくための実践的方法論を提案します。【毎月第1・第3火曜日更新予定】


 働くためだけに生きているわけじゃない。

 綺麗事に思えるが、充実した生を送る上で忘れてはならないことだ。働く必要がなかったら、つまり労働によって収入を得る必要がなければ、働きたくない人は相当数いるだろう。かくいう私もその一人だ。幸か不幸か私には働かなくても生きていけるほどの資産を持つ生家もなく、資産形成の元手は己で稼がなくてはならない。生家に潤沢な資産がなかったからこそ、親との経済的な主従関係を早々に破棄できた。そして今病気や不調を抱えながら自身を養って生きていく方法論を書いている。何がどう転ぶかはわからない。

 働く喜びが存在する事実は否定しないが、ここではさほど重要ではない。働く喜びがあろうがなかろうが、社会とつながりたかろうがつながりたくなかろうが、病や不調と付き合いながら自身を養って生きていきたいと願う人のために本連載はある。本連載において社会保障の利用は生存の可能性を高めるものであり推奨しているが、生活保護制度の利用がある程度の自由を奪うのもまた事実だ。この制限は不当だけれど、制度の利用に経済的困窮の証明は必要なので改善が進んでも完全にはなくならないだろう。そして直視せざるを得ない現実として現行の支給額で充実した生を送れない事実がある。この社会のセーフティネットは最低限度の健康で文化的な生活すら実現できていない。

 病気や不調があるが働いて収入を得たい。そう思って障害者雇用の求人を見てみれば、多少の時短はあれど労働時間は一般雇用とほぼ変わらない。安定した勤務を求められるのは周知の事実だ。それができないから障害者雇用を検討しているのにと不満もあるが、障害者雇用は福祉ではなく労働だ。雇用契約が安定して労働力を提供する形を取る契約形態である以上、勤務の不安定さを受け入れるのには限界がある。そして雇用されることを目指す就労支援系の障害福祉サービスである就労継続支援事業所も形が似てしまう。そして給与や工賃は著しく低い。

 不調に悩まされる人が充実した生を送るために働く方法は限られており、そのなかにフリーランス(個人事業主)がある。雇用契約とフリーランスを並べてそこから選ぶ余地もなく、働くだけで人生を終わらせず、かといって自由を手放さないためにはフリーランスをやるしかない。そういった人のための方法論を書いていく。

◇  ◇  ◇

 遅くなったが、自己紹介をする。私は文筆業のフリーランスとアルバイトを兼業していて、文筆では雁屋優と名乗っている。近い将来、文筆と研究のフリーランスになる見込みだ。指定難病でもある眼皮膚白皮症(アルビノの方が一般には通りがいい)や自閉スペクトラム症、うつ病などのある病者だ。週二日のアルバイトはほぼ予定通り出勤できるものの、翌日は昼過ぎまで横になっている。文筆業における稼働時間、稼働時間帯はその日の体調や季節、気候に左右され、ログを見てもどう頑張っても安定しているとはいえない。調子のいい朝は稀で基本は昼過ぎに始業する。過集中で数時間ぶっ続けで書き上げてぶっ倒れるときもある。コンスタントな労働や安定した勤務なんてものは一生手が届かないだろう。

 大学では生物学を専攻し、文筆業では医療や科学、社会課題を扱ってきた。病とともに生きるための理論構築を目指しており、病そのもの(特にアルビノ)を医学的に探究する趣味がある。PubMedいつもありがとう。

 私は疲れやすくて体調も安定しなくて、雇用されるには向かない。それでも書き続けて今がある。「ふつうに」働けないわけではない。でも一日八時間、週五日をやっていたら、働くしかできなくなる。寝て起きて出勤、退勤、そして沈むように寝てまた出勤、しかできなくなる。当然、家事などの生活も余暇もない。ただ働き生命維持をするだけの人生になってしまう。それでは充実した生からは程遠い。

 充実した生と自由のためにフリーランスになった。いや、選択の余地はなかった。続けられる見込みのある働き方はフリーランスしかなかった。

◇  ◇  ◇

  フリーランスに関する書籍もweb記事も溢れている。子育て中の女性向けのものもよく見かけるが、病気や障害を抱える、いわゆる、「虚弱」向けのものは見当たらなかった。

 企画を出す、勉強する、人と交流する。もちろん、たくさん。

 健康がないとできないことばかり書いてある。そんなことができない虚弱だからフリーランスになったのに、健康でないとフリーランスもやっていけないのかと絶望しかける。同様に見切りをつけて被雇用者を諦めたが、フリーランスは諦めなくてもいい。バリバリ働いてたくさん稼ぐとはいかないけれど、充実した生と自由を手に入れる程度の収入を目指すならやりようはある。フリーランスは成果物や業務を売る契約であり、安定した労働を提供する雇用契約とは異なっているからだ。納期に成果物があれば真夜中に作っていようが一日一時間しか稼働できなかろうが問題にはならない。前述の状態では被雇用者ではいられないが、フリーランスはやれる可能性がある。

 虚弱な人にフリーランスを軽率に勧めるつもりはない。フリーランス新法ができてもフリーランスへの保護が手薄いのは変わらないからだ。でも虚弱な人が「フリーランスでやっていくしかないか」と覚悟を決めたときに指針になるものが必要だと思って、本連載を書き始めた。健康も安定した稼働も見込めない。不安定な体調とともにありながらフリーランスをやるには、健康な人と違う視点で違う動きをしなければならない。虚弱フリーランスの方法論を始めよう。

◇  ◇  ◇

 改めて本連載がどんなことを“目指していない”か確認し連載を始める。

本連載で“目指していない”こと

1. 雇用されて働くことを目標に頑張る。

2. 漠然とたくさん稼ぐことを目指す。

3. 働く時間や量を増やして収入を上げる。

4. 健康や生活や家族や趣味など、生きがいになるものを犠牲にして働く。

5. 絶対に自分の収入“だけ”で自立する。(他人に支配されない自分のお金なら遺産も不労所得も社会保障も活用していく。)

6. 生きていけるならと自分を削ったり他人に支配されたりすることを受け入れる。

7. 自分の過ごしやすさや体調よりも、社会や世間に承認される形に沿うことを優先する。

タグ

バックナンバー

著者略歴

  1. 雁屋 優(かりや・ゆう)

    文筆業/研究者志望。主に医療・科学領域で研究や執筆を行う。
    茨城大学理学部卒業。北海道大学COSTEP(科学技術コミュニケーター養成プログラム)修了。
    単著『マイノリティの「つながらない権利」』(明石書店、2025年)ほか、論考「家族をつくる選択肢を緩やかに確実に奪う構造の解剖:障害者グループホームの制度設計から見る優生思想」(『季刊福祉労働176号』現代書館、2024年)や『障害のある10代のための困りごと解決ハンドブック』への寄稿などがある。

関連書籍

閉じる