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虚弱フリーランスの方法論

第5回 フリーランス関連法を知ろう

 病気や障害を抱える「虚弱」だから、安定した労働を提供する被雇用者ではなくフリーランスになるほかない。フリーランスでたくさん稼ぐには、積極的に人と交流することのできる健康が必要。一見矛盾するこの状況のなかでどのように生きていくか――。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ人とつながることを避けて通れない、という逆説的現状に一石を投じた著書『マイノリティの「つながらない権利」』で話題を集めた気鋭の著者・雁屋優さんが、ご自身の経験をもとに「虚弱」な人がフリーランスとして生きていくための実践的方法論を提案します。【毎月第1・第3・第5火曜日更新予定】


 フリーランスを人に勧められない理由に保護の手薄さがある。フリーランス新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)といわれる法律が整備されたとはいえ、フリーランスの基本は自己責任になってしまっている。フリーランス以外に道がないのは自己責任ではないのに理不尽にもほどがある。労働市場があまりにも厳格だからこそ、そこにいられない人がフリーランスで何とかやっていこうとしているというのに。

 だからこそ、身を守るために使えるものは知っておいて損はない。知らなければ搾取されてしまうのがこの社会の常なのだ。不条理なことこの上ないが。

 ここでは労災保険の特別加入とフリーランス新法の概要を紹介する。

 ◇ ◇ ◇

 労災保険の特別加入については、厚生労働省の「令和6年11月1日から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となりました」のページに詳細がある。特別加入をして保険料を支払っていると、業務中の病気や怪我に対する療養等給付、休業等給付、遺族等給付が受けられる。所得に応じて適正な給付基礎日額を決めて加入し、それを元に休業等給付などが支払われるしくみになっている。

 フリーランスとして行う業務や契約の形態で申請する加入団体などが異なってくるので、よく読んで申請をしよう。フリーランスだから誰もが加入できるわけではない点には注意が必要だ。

 給付基礎日額は16段階あり、年間保険料が数千円の段階もある。最低額でも加入ができそうならばしておくといい。業務内容や業務中の定義なども少し難しいので、個々のケースに応じた判断が大切だ。

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 さらに、フリーランス新法が労災保険の特別加入と同じく2024年11月から始まっている(参考:公正取引委員会特設サイト)。ここでいうフリーランスとは従業員を雇わず、業務委託を受けて仕事をしている人を指す。個人販売などは入らないので注意しよう。

 フリーランス新法の概要は以下の通りだ。

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1. 書面などによる取引条件の明示

業務委託をする際には直ちに書面または電磁的方法(メール、SNSのメッセージ等)で取引条件を明示する義務がある。口頭での明示ではなく、書面または電磁的方法かを発注事業者が選んで明示すること。

業務内容、報酬額、支払期日、業務委託事業者・フリーランスの名称、業務委託をした日、成果物を受領する日/業務の提供を受ける日、成果物を受領する場所/業務の提供を受ける場所、(検査をする場合)検査完了日、(現金以外の方法で報酬を支払う場合)報酬の支払方法に関して必要な事項を明示しなければならない。

2. 報酬支払期日の設定・期日内の支払い

発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り短い期間内で定め、一度決めた期日までに支払うこととする。

3. 7つの禁止行為

①受領拒否(注文した物品または情報成果物の受領を拒むこと)

②報酬の減額(あらかじめ定めた報酬を減額すること)

③返品(受け取った物品を返品すること)

④買いたたき(類似品等の価格または市価に比べて、著しく低い報酬を不当に定めること)

⑤購入・利用強制(指定する物などを強制的に購入・利用させること)

⑥不当な経済上の利益の提供要請(金銭、作業の提供等をさせること)

⑦不当な業務内容の変更・やり直し(費用を負担せずに注文内容を変更し、または受領後にやり直しをさせること)

4. 募集情報の的確表示

虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならず、また、募集情報を正確かつ最新の内容に保たなければならない。

5. 育児介護等の両立に対する配慮

6か月以上の業務を委託している場合、フリーランスからの申出に応じて、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければならない。

また、6か月未満の業務を委託している場合も配慮するよう努めなければならない。(努力義務)

6. ハラスメント対策に関する体制整備

ハラスメントによりフリーランスの就業環境が害されることがないよう、相談対応のための体制整備などの必要な措置を講じなければならない。

7. 中途解除等の事前予告・理由開示

フリーランスに対して6か月以上の業務を委託している場合(継続案件)で、その業務委託に関する契約を解除する場合や更新しない場合、少なくとも30日前までに、①書面②ファクシミリ③電子メール等による方法でその旨を予告しなければならない。

また、予告がされた日から契約が満了するまでの間に、フリーランスが解除の理由を請求した場合、同様の方法により遅滞なく開示しなければならない。

(公正取引委員会の特設サイトを元に作成)

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  十分な保護とは思わないが、それでも少しは環境がましになっていると感じている。施行当初は発注側がフリーランス新法の詳細を知らないこともあったが、徐々に浸透してきている。受注の際にハラスメント相談窓口の案内がされたり、迅速に報酬が入金されたりと変化はある。

 単発の依頼であっても期間が長ければ実質的な継続案件とする、報酬の支払い期限を60日よりさらに短くするなどいくつかの改善点は私にも思いつく。しかし、最低限のラインが引かれたことは大きな前進だ。

 ◇ ◇ ◇

 労災保険の特別加入やフリーランス新法の対象にならないフリーランスも存在している。むしろ虚弱な人々はそちらの方が多いかもしれない。だが、労災保険の特別加入やフリーランス新法の対象になったときに気づいて保護されるためにも知っておく必要がある。

 法律を知っていても発注者に言えるかは別問題なのだが、いざというときは前回紹介した社会保障がある、と思えば多少安心して言えるのではないだろうか。あなた自身の生存が何より大切だと忘れないでほしい。

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著者略歴

  1. 雁屋 優(かりや・ゆう)

    文筆業/研究者志望。主に医療・科学領域で研究や執筆を行う。
    茨城大学理学部卒業。北海道大学COSTEP(科学技術コミュニケーター養成プログラム)修了。
    単著『マイノリティの「つながらない権利」』(明石書店、2025年)ほか、論考「家族をつくる選択肢を緩やかに確実に奪う構造の解剖:障害者グループホームの制度設計から見る優生思想」(『季刊福祉労働176号』現代書館、2024年)や『障害のある10代のための困りごと解決ハンドブック』への寄稿などがある。

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