第11回 不測の事態は休む必要が生じる前にクライアントに共有
病気や障害を抱える「虚弱」だから、安定した労働を提供する被雇用者ではなくフリーランスになるほかない。フリーランスでたくさん稼ぐには、積極的に人と交流することのできる健康が必要。一見矛盾するこの状況のなかでどのように生きていくか――。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ人とつながることを避けて通れない、という逆説的現状に一石を投じた著書『マイノリティの「つながらない権利」』で話題を集めた気鋭の著者・雁屋優さんが、ご自身の経験をもとに「虚弱」な人がフリーランスとして生きていくための実践的方法論を提案します。【毎月第1・第3・第5火曜日更新予定】
どれだけ余裕を持ったスケジュールを立てても、不測の事態は生じる。親族の不幸、自分の不調、突然の怪我や病気などは健康な人でも起こりうることだが、虚弱であれば、自分の不調や病気の頻度が著しく高くなる。虚弱は他の病気や症状が併発するケースがあるからだ。例えば、自閉スペクトラムと睡眠障害や消化器症状(胃腸の弱さや過敏さなど)が関連していることは多く指摘されている。また、病気にかかりやすいという虚弱の形態も考えられる。
体調管理は社会人の基本スキルなどと言われるが、体調を管理する発想そのものが幻想だ。健康な人々は体調を管理できているのではない。虚弱な人々よりも圧倒的に不調の頻度が低く、体調を管理できていると評価されるだけだ。社会は虚弱に不利な構造で作られているといえる。
そして被雇用者よりはやりようがあるとはいえ、フリーランスも体調管理幻想に支配された働き方が蔓延している場所なのは否定できない。フリーランスには自分のペースでたくさん仕事をしたい、できるからフリーランスを選んだ人もいる。虚弱の正反対の人も多いのがフリーランスなのだ。クライアントに不調を伝えて体調管理がなっていないと思われたと察した経験は私にもある。虚弱な人々がいると想像もできない人々、そうした場所は存在する。
あまりにも虚弱に不利な環境の改善が必要なのは間違いないが、その改善までを虚弱フリーランスとして生き延びる方法も考えなければならない。前回のように余裕のある締切設定をしてそれを了承するクライアントと仕事をしていくのを基本として、それでも訪れる不測の事態にどう対処するのがいいのだろうか。
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不測の事態は避けられない。減らす努力も必要だが、完全にゼロにできないのも事実だ。不調になる自分を責めるのではなく、事実を受け入れなくてはならない。では、その不調にどのように対応し、クライアントからの信頼を失わないように立ち回るのか。
余裕を持った締切設定を前提に、不調はすぐにクライアントに伝えるべきだ。締切に間に合わないと確定したときではなく、間に合わない可能性が出てきたときに報告するのがいい。不調を伝えておいて結局間に合えばそれはそれでいい。けれど、伝えないでいて、締切直前に「無理です」と言われる方がクライアントは困る。
熱が出て、インフルエンザやコロナの感染を疑ったときを例にすると、以下のようになる。
まず、あなたが発熱やめまい、喉の痛みなどの症状を自覚する。そこから受診の必要やウイルスを検出できる時間なども考えて、病院にいつ行くかなどを決める。病院で検査を受けて、感染の有無が判明して処方などがされる。そして家に帰って療養する。
症状を自覚して病院に行くべきかを迷った段階で締切が近い案件が進行中のクライアントには一言伝えておくといい。締切が1か月後など余裕もあるなかで、長くても1週間程度の療養ですむと予測できたら言わない判断もありうる。しかし、最初はその予測もあまり正確ではないので念のために伝えておくくらいが程よい。
クライアントは依頼するフリーランスに会ったことも顔を見たこともない場合がある。対面せずにテキストコミュニケーションをメインにやり取りする働き方は広まるべきだが、それゆえに生じる不安を無視するわけにもいかない。そうした不安を解消するのは締切を守ること、成果物のクオリティが高いこと、そして適切な報告があることだ。何でも報告すればいいわけではないが、何かがありそうなら一言業務連絡に添えて伝えるのは大切だ。
親族の不幸も突然起こる場合もあるが、元々闘病していていつかは亡くなるかもしれないと予測できるケースもある。詳しいことを言わなくていいが、「親族ががんで闘病していて、来年まで生きるのは難しいと言われている」など端的に伝えておくとクライアントもこちらの不測の事態をまったくの予想外ではなく、少しは心の準備をした上で受け止められる。
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ここまで書いてきたことと矛盾するが、私は親族が亡くなったとき進行中の案件があるクライアントに伝えていなかった経験がある。それは私が親族の訃報で仕事の進行を止める気も遅らせる気もなく、実際通常営業で案件を進められるからだ。私は親族の訃報に接しても自分の気持ちが動かないのをよく理解している。そして、訃報に思考が止まるわけでもなく、むしろ手を動かして何かを作っている方が気持ちは落ち着く。私のクライアントの皆さんは家族主義を問題と考えている方も多いのであまり心配していないが、それでも「家族なのだから葬儀に行くべきだ」などと、業務に無関係かつ求めてもいない助言をされるリスクもゼロではない。訃報で仕事を止めない私でも、動揺している時期に家族主義に基づいた言葉を向けられるのは少々ダメージになる。
クライアントに不調や親族の訃報などを報告するのは、業務の進行のためだ。決して心配してほしいからでも、助言が欲しいからでもない。業務の進行に支障がないなら不調も親族の訃報も伝えなくていい。しかし、業務の進行を遅らせたり止めたりする可能性があるのなら、大まかな理由と進行再開の時期の予測を伝えなくてはならない。何を伝えるべきかではない。進行を左右しかねない事態は報告すると考えてほしい。
自分の不調が業務の進行に支障がないなんてことは虚弱ではほぼありえないので、一日で終わらなさそうな不調は自覚した段階で伝えるのが賢明だ。
