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虚弱フリーランスの方法論

第10回 進行管理のコツは自分を信じないこと

 病気や障害を抱える「虚弱」だから、安定した労働を提供する被雇用者ではなくフリーランスになるほかない。フリーランスでたくさん稼ぐには、積極的に人と交流することのできる健康が必要。一見矛盾するこの状況のなかでどのように生きていくか――。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ人とつながることを避けて通れない、という逆説的現状に一石を投じた著書『マイノリティの「つながらない権利」』で話題を集めた気鋭の著者・雁屋優さんが、ご自身の経験をもとに「虚弱」な人がフリーランスとして生きていくための実践的方法論を提案します。【毎月第1・第3・第5火曜日更新予定】


 今まさに自分を信じない進行管理をしていてよかったと胸をなでおろしながら書いている。ある意味タイミングがいい。

 自分を信じない進行管理とは何か、私の現状をサンプルとして解説しよう。手順は以下の通りだ。

1. 実際にその仕事にかかる時間の1.5~2倍の期間を確保して自分の締切を設定する
2. その締切よりは稼働日で1日、体調によっては2日程度の余裕を持たせた締切(日時も細かく設定するのが大事)をクライアントと共有する
3. 可能な限り通常のペースで仕事を進めていく(このとき、不調や不測の事態は発生するのは仕方ないが、余裕があるからといってそれ以外で先送りにしないのがポイント)
4. 成果物をクライアントに提出する

◇ ◇ ◇

 具体的な数字の設定方法を説明する前に、この手順の考え方を説明しておきたい。

 連絡なく成果物を出さずに消える、いわゆる「飛ぶ」のがフリーランスとして一番避けるべきだ。佐藤友美さんの『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス、2021年)でもふれられているが、「飛ぶ」のが一番よろしくない。フリーランスはただでさえ法人よりも社会的信用がない上に、虚弱さを隠していなければより信用されにくい。虚弱さゆえに労働から排除される現実は問題だが、事業は福祉ではなく経済活動であり、相手があるから社会的信用を積み上げる必要がある。これは思いやりではなく、システムの話だ。

 ここで問題になってくるのが、虚弱ゆえの体調の不安定さだ。病院で異常が見つかるなどの不測の事態も虚弱だからこそ、そうでない人より頻繁に発生する。それが虚弱だ。このことが虚弱な人が締切を守るハードルを非常に上げている。再度言うが、それは虚弱な人のせいではない。しかし、クライアントがその不安定さのリスクを負う義務はない。被雇用者よりも柔軟に締切を設定できるフリーランスの環境を活かして締切を守れる構造を作るのがいい。

 クライアントにも当然スケジュールがある。長めに締切を設定するけれど締切はほぼ守られる発注先と、短い締切にも了承するが締切を守れないことも多い発注先ならどちらがやりやすいだろうか。圧倒的に前者だ。なぜなら前者のケースは予定が狂わないからだ。フリーランスの側から見えている仕事は基本的に大きなプロジェクトの一部であり、納品した後もクライアントにはその後の工程がある。予定より早く納品されるなら助かるが、遅れたら大迷惑なのだ。

 そうはいってもそんな長い締切を提案したら失注するのではないかとおそれる人もいるだろう。実際、それはないとはいえない。直接言われた記憶はないが、おそらく私も経験している。成果物を納品するタイプのフリーランスといっても、業界、ジャンル、事業形態などでクライアントの特徴は異なっている。迅速に大量の仕事をするところもあれば、時間的余裕を取れるところもある。どちらがいい、悪いではなく、虚弱な人は高速で仕事をするクライアントとは相性が悪いだけのことだ。

 仕事がない駆け出しの頃こそ、受注できそうなものは何でもやらなくてはいけないと焦ってしまうかもしれない。しかし、初期こそ社会的信用を積み上げなくてはいけない。締切をしっかり守る人だと認識されなければ、次の仕事はなかなか来ない。そしてここで焦ってしまわないためには、準備段階で社会保障を活用して経済的基盤を作るのが欠かせない。

 だからこそ、余裕を持った締切を決めておき、それを了承してくれるクライアントと仕事をして、基本的に締切を守れる形で仕事をするのが大切だ。

 ◇ ◇ ◇

 それでは、どのようにこの進行管理をしていくのか。以下に説明する。

 まず、その仕事にかかる時間を予測する。何度かやっている仕事はわかりやすいが、未経験の仕事はわかりにくい。未経験の仕事は通常よりも余裕を持って締切を設定し、受注したらすぐ取りかからなくてもいいからざっと内容を確認し少しだけ手をつけてみる。そうすると早い段階でより時間が必要かどうか判断できる。早い段階であれば、締切の延長などの相談もしやすい。

 冒頭で示した手順に出てくる数字は私のやり方なので、自分に適した数字を実践と検証の繰り返しで設定していってほしい。そのために自分の作業記録、つまりログを取る。少し具合の悪い日にはこれくらいのペースで可能、とても具合の悪い日にはできない、とても具合の悪い日はこういう条件が多い、など、データを取るのだ。気圧頭痛などを予測する無料アプリもあるので、使ってみてほしい。

 生成AIに話しかけてより適切なペースを提案してもらうのも、ノートに記録するのもいい。最近はウェアラブルデバイスも活用できる。そして、データを取れなかったことにも意識がある。データを取るほどの元気がなかった、不調を気にしないほど元気に仕事に集中できた、など人によって意味が違うかもしれないが、データを取れなかったときも自分を責めずに続けていこう。

 ◇ ◇ ◇

 今回、私は乳がん検診の結果で要精査といわれ、動揺しながら急いで乳腺外科を受診していた。幸いにも悪性腫瘍ではなかったが、この手順で余裕を作っていなければ、締切どころではなかっただろう。

 つまり、進行管理のコツは自分の体調を信用しないことだ。自分の体調も予定も、崩れる。虚弱であればそれはそうでない人より多くなる。だからこそ、崩れる前提で進行管理をするしかない。

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著者略歴

  1. 雁屋 優(かりや・ゆう)

    文筆業/研究者志望。主に医療・科学領域で研究や執筆を行う。
    茨城大学理学部卒業。北海道大学COSTEP(科学技術コミュニケーター養成プログラム)修了。
    単著『マイノリティの「つながらない権利」』(明石書店、2025年)ほか、論考「家族をつくる選択肢を緩やかに確実に奪う構造の解剖:障害者グループホームの制度設計から見る優生思想」(『季刊福祉労働176号』現代書館、2024年)や『障害のある10代のための困りごと解決ハンドブック』への寄稿などがある。

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