第6回 スキルセットや強みを知る・作る
病気や障害を抱える「虚弱」だから、安定した労働を提供する被雇用者ではなくフリーランスになるほかない。フリーランスでたくさん稼ぐには、積極的に人と交流することのできる健康が必要。一見矛盾するこの状況のなかでどのように生きていくか――。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ人とつながることを避けて通れない、という逆説的現状に一石を投じた著書『マイノリティの「つながらない権利」』で話題を集めた気鋭の著者・雁屋優さんが、ご自身の経験をもとに「虚弱」な人がフリーランスとして生きていくための実践的方法論を提案します。【毎月第1・第3・第5火曜日更新予定】
第3回でふれた資格や専門性と少し重なる話になるが、自分がどんなスキルセットや強みを持っているのか、あるいはそれらをどう作れるのか考え、行動することが欠かせない。
参考までに私のスキルセットや強みを以下に示す。
スキルセット
・記事や書籍の企画
・インタビュー取材
・文献やwebでのリサーチ
・生物学をはじめとする自然科学の知見
・科学技術コミュニケーションの視点
・病者/虚弱な人間の視点
・物語、表象への強い関心
・自然科学や科学技術コミュニケーション、病者の生存への関心
・記事や書籍の執筆
・ZINEの自主制作(企画から誌面デザイン、執筆、入稿まで一人で行える)
強み
・視力の割に文章を読む速度がある
・長い文章を扱うのが苦ではない
・思考が拡張、連続していく(病者の生存を起点に表象や経済的支援、医療アクセスを考えていく、など)
・やりたいことを有言実行してきた実績
・少ない時間で深く集中できる
・人より速い執筆速度
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スキルセットは専門性や資格と被る部分もあるが、自分の経験やポジションだからこそ獲得できた視点も含まれる。アイディアはやはり立場や経験、いる場所に規定される。
たとえば、私には自分が世界陸上に出場する想像やそうした選手への質問作成は急に言われてもうまくできないが、アルビノの選手がどんな日焼け対策をして出場しているかの想像や質問の作成は今この瞬間でも具体的にできる。自分と近い属性だから理解できると言いたいのではない。馴染みのある分野だからどこを見ればいいのか視点の置き方がわかる。
私のスキルセットを見てもわかるように、一つひとつのスキルはさして珍しいものではない。一人でZINEを制作できる人は、文学フリマやコミックマーケットのような同人誌即売会に行けば山ほどいる。記事や書籍の執筆ができる人も少なくない。だが、このスキルセットを持っている人間はそう多くない。スキル単体ではなく、スキルセットで勝負するのだ。
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強みも一見長所ばかりに見えるが、思考の拡散、連続は悪く言えば脳内が多動とも取れる。実際私は子どもの頃から人の話を聞きながら頭の中で自分だけの連想ゲームを繰り広げていて、話よりもそちらに夢中になってしまっていたこともある。しかし、現在それは洗い物や事務作業、推敲などをしながら新たな企画が生まれる強みになっている。虚弱で稼働時間を多く確保できない私にとって、そうした並行での思考は少ない稼働時間で多くの成果を生み出すのに役に立っている。
執筆や読書の速度があるのもいわゆる過集中から来ている。時間で区切っても濃密で深い集中をしてしまいその後反動で疲れて動けなくなるので、難儀な性質でもある。しかしこれも稼働時間の少なさを補ってくれるものだ。
短所と思っていたものが、案外強みになる。フリーランスは特にそうした反転が起きやすい。
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では、そんなスキルセットや強みはどうやって知り、作るのか。
とても稀少なスキルでなくていい。周囲の全員が持っているわけではなく他にも持っている人がちらほらいる程度の稀少さで構わないので、自分が持っているスキルをリストアップしてみてほしい。それらを組み合わせたものがスキルセットになる。お金が発生するかわからなくてもやりたくてやってしまう、考えるのをやめられないことがあれば、その関心もスキルになる。
強みは長所や短所から考えるといい。夜型で朝出勤して夕方帰ってくる生活がつらいことも、夜間に稼働できると考えれば何かに使える強みになる。人と違うことは強みにできる可能性がある。環境調整の自由度が高いフリーランスでは発想次第で違いを強みに変えられる。新型コロナウイルスの感染拡大のなか、家で過ごし続けるにも向き不向きがあると実感した人も少なくないだろう。環境が変われば何が強みになるのかも変わる。フリーランスは、自分のあり方を強みにする環境を考え続ける働き方でもある。
どう見つければいいのか迷ったら、周りが自分より何に苦労しているのか、見てみるといい。私はとある人にそんなにすぐ書けないと言われて初めて、自分の執筆速度が人よりかなり速いことに気づいた。また別の機会に文章を読むのがきつい、動画の方が楽と聞いて、自分との違いを感じた。私は動画を視聴しているのが本当にきついのだ。大抵見ていられなくて、音だけ聞く形になる。
また、自分の強みを考えていくと、自分の苦手も見えてくる。私はアニメを観るのは平気だが、動画、特に実写の人間が出てくるものだと視聴し続けるのがつらくなる。何なら人よりできるか、あるいは何が苦手かを雑に断じず、細かく見ていくと、自分に向いているフリーランスの形が形作られていく。
一般的に何が歓迎されるかは置いておいて、自分のスキルセットや強みを知り作る。それを活かせる環境や働き方を考えてそこに向かっていく。その試行錯誤が生存を作る。
