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虚弱フリーランスの方法論

第3回 汎用性の高い資格や専門性

 病気や障害を抱える「虚弱」だから、安定した労働を提供する被雇用者ではなくフリーランスになるほかない。フリーランスでたくさん稼ぐには、積極的に人と交流することのできる健康が必要。一見矛盾するこの状況のなかでどのように生きていくか――。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ人とつながることを避けて通れない、という逆説的現状に一石を投じた著書『マイノリティの「つながらない権利」』で話題を集めた気鋭の著者・雁屋優さんが、ご自身の経験をもとに「虚弱」な人がフリーランスとして生きていくための実践的方法論を提案します。【毎月第1・第3・第5火曜日更新予定】


 荒海に出る前の準備。まずは基礎武器の準備だ。木の棒だけで嵐の海に出るわけにはいかない。汎用性の高い資格や専門性なんてGoogleか生成AIにでも聞けば出てきそうなものだが、ここで言う汎用性の高い資格や専門性は少し違う。では何を汎用性の高い資格や専門性とするのか、その定義から始めたい。 

・リモートワークやフレックスタイムといった柔軟な働き方ができる

・その資格や専門性があるからこそできる業務や応募できる求人がある

・資格や専門性そのものの信頼性が高い(国家資格または国家資格に準ずる扱いの民間資格である)

・高収入・高単価を見こめる(となおよし)

 どこかで聞いたような話に思えるかもしれないが、一番上が何より大事だ。検索で出てくる記事では、この柔軟な働き方への視点が弱くなりがちだ。これがなければ何も始められない。

 例えば、医薬品の販売に関わる登録販売者や子の保育を行う保育士は社会の需要はあるものの、出勤が避けられない。これらの資格を現在持っている人が虚弱になったときにその経験を活かして何か発信するような使い方はあるが、虚弱な人がこれから取るには現実的ではない。

 産業構造の変化により現地で実際に手を動かす職種の需要は高まるといわれているが、虚弱な人にそれは無理だ。そうした職業では厳密な時間の制約や作業時間帯の制限がある。体調に左右されやすく、エネルギーも少ない虚弱な人は専門性で勝負するしかない。専門性を証明するのは資格だけではないが(私の文章もその一つだろう)、資格で証明するのが手っ取り早いし資格はその世界に入る入口にもなってくれるのだ。

 今高校や大学に在籍している虚弱な人には今いる場所でなくともいいが、卒業証書は何とか手に入れてほしい。高校や大学を卒業しているか否かで応募できる求人の幅が変わってくる。通信制でも高卒認定試験でも卒業資格であるならば問題ない。

 気になる分野が出てきたら、その分野の資格や信頼性を調べて、勉強の前に「○○ リモートワーク」「○○ フリーランス」などと検索してみてほしい。

◇ ◇ ◇

 もし今あなたが医師免許、弁護士や税理士、電気工事士などの業務独占資格を持っているなら、かなりのアドバンテージになる。業務独占資格とは、有資格者でないとその業務が行えないと定められている資格だ。医師や弁護士、電気工事士でなければやってはいけないことがあるため、有資格者の需要は高まる。業務独占資格には狩猟免許などもあるが、虚弱な人に向いているとは言えない。つまり、体調に合わせた柔軟な働き方ができる業務独占資格が望ましい。

 リモートワークなど柔軟な働き方を選択できそうな業務独占資格を以下に挙げてみた。

公認会計士、行政書士、弁護士、司法書士、医師、看護師、税理士、社会保険労務士、電気工事士、宅地建物取引士など

  医師や看護師は実際に医療施設で働く以外にも、医師や看護師だからこそできる業務が存在する。例えば医師や看護師に新型コロナウイルスやワクチンについて相談できるコールセンターや遠隔での診察や相談がそれにあたる。

 電気工事士はその場で工事しないといけない仕事だが、最近は「くらしのマーケット」のように個人に依頼できるサイトがあり、自分で仕事量や対応地域を調整して受注していく手段もある。

 教員免許も出勤できなければ使いどころがないと思うかもしれないが、オンライン家庭教師の採用で有利になるので今ある人はぜひ活用してほしい。

 今これらの資格を持っている人は、自宅からどう活用できるか考えるところから始められる。

◇ ◇ ◇

 また、出勤は欠かせないが自分一人または自分が事業主として開業できる資格もおすすめだ。開業できる資格であれば、自分で稼働日、稼働時間などを決められる。自分の体調に無理のない稼働でやっていける。

 該当するのは弁護士や司法書士のような法曹のほか、美容師や理容師、マッサージなどを行うあはき業や柔道整復師だ。営業時間を自分に無理なく設定してお客さんに来てもらう形で働ける。自分の店なので自分が仕事しやすい作りにすることも可能だ。もちろん、店舗を持たずに病院や依頼先に出張する形も選択できる。

◇ ◇ ◇

 そんな資格は現時点で持っていない、今から取れるエネルギーもお金もないケースもあるだろう。動き出せる状況でないときは休むのが大事だ。しかし、お金がネックであるならば、教育訓練給付金を調べてみてほしい。社会保険労務士や宅地建物取引士も教育訓練給付金の対象になっている。(参考:厚生労働省

 また、直接使える資格でなくとも、その分野への関心を示すのに資格は有用だ。語学やITといった仕事に役立ちそうな資格も大事だが、その分野が好きでそれについて詳しく発信できることを示すために好きだけど仕事にはつながらなさそうな少し変わった分野の資格を取ってみるのもいい。最近は家から受検できる資格も多いので、スモールステップとしてリハビリ的に好きな分野の資格を取るのもいい。

〈取得でその分野への関心を示せる資格の例〉

韓国語検定、実用英語技能検定、手話検定、統計検定、化粧品検定など

好きを資格の形で示せる資格の例

世界遺産検定、アロマテラピー検定、生物分類技能検定、境港妖怪検定、ねこ検定など

◇ ◇ ◇

 資格や専門性が見こめないと、望みがないのだろうか。そんなことはない。そういう人はできることや作れるものを明らかにしたプロフィールやポートフォリオを作り、サンプル商品を作って発信するやり方がある。

 プロフィールやポートフォリオの作り方はまた別の機会に書く。

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著者略歴

  1. 雁屋 優(かりや・ゆう)

    文筆業/研究者志望。主に医療・科学領域で研究や執筆を行う。
    茨城大学理学部卒業。北海道大学COSTEP(科学技術コミュニケーター養成プログラム)修了。
    単著『マイノリティの「つながらない権利」』(明石書店、2025年)ほか、論考「家族をつくる選択肢を緩やかに確実に奪う構造の解剖:障害者グループホームの制度設計から見る優生思想」(『季刊福祉労働176号』現代書館、2024年)や『障害のある10代のための困りごと解決ハンドブック』への寄稿などがある。

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