第13回 働き続けるために医療を利用する
病気や障害を抱える「虚弱」だから、安定した労働を提供する被雇用者ではなくフリーランスになるほかない。フリーランスでたくさん稼ぐには、積極的に人と交流することのできる健康が必要。一見矛盾するこの状況のなかでどのように生きていくか――。誰かとつながることが苦手でマイノリティ属性をもつからこそ人とつながることを避けて通れない、という逆説的現状に一石を投じた著書『マイノリティの「つながらない権利」』で話題を集めた気鋭の著者・雁屋優さんが、ご自身の経験をもとに「虚弱」な人がフリーランスとして生きていくための実践的方法論を提案します。【毎月第1・第3・第5火曜日更新予定】
虚弱と医療の相性は実はそんなによくない。病名がつかないケースは特に悪い。SNSで虚弱な人々の投稿を見ていくと、探さなくても医療者に冷たくあしらわれた経験を確認できる。個々の投稿の真偽は定かではないが、まったくない話でもないだろうと感じる。検査値に表出しない不調をすべて詐病や気のせい、心因性と片付ける医療者は残念ながら少なくない。虚弱さにはそうした検査では検出できない不調も含まれている。医療から心が離れるのも理解できる。
それでも、どうか心折れずに医療を利用してほしいと願いをこめてこの回を書いている。経験上、医療者にもいろいろな人がいると知っているからだ。原因不明、検査でも異常はない不調を病気ではないと切り捨てる人もいれば、そのなかでどう生活を改善できるか知恵を絞る人もいる。後者に出会うまで諦めずに医療に接触し続けていくことを推奨する。
虚弱の自助努力にあまりに頼りきりで、書いていて自分でも少し気が滅入る。でも、医療から離れたら状況が悪化するのは紛れもない事実であり、その代償を支払うのはあなたを冷たくあしらった医療者ではなく、虚弱の困難を抱えるあなた自身なのだ。理不尽にもほどがあるが、それが現実だ。そして、医療に関しては自己決定や生命倫理の観点から本人が望まないなかで治療を行うのは法的にも制約がある。心が離れても身体まで医療から離さないでいないといけない。そうしなければ壊れるから。
医療を利用し続けることは身体を壊さないためだけでなく、いざというときに公的支援に接続しやすくする効果もある。生活保護受給の際に自分の不調を証明してくれる信頼の置ける記録として医師の所見が機能する。
そして、障害年金をはじめとした制度への接続、更新にも医療との接触が欠かせない。困難を証明し続けなければ、困難はなかったことにされる社会を生きる虚弱のサバイバル術の一つだ。
最近では障害者手帳などの情報も自治体に把握されており、防災、新型コロナウイルスのワクチンの優先接種など緊急時にも役立っている。困難があると示し続けるためには障害者手帳などの証明書が必要であり、それらを得るには医師の診断書や所見が欠かせない。
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医療を利用し続けると、病状や薬にもよるが定期検査も生じてくる。それによって、自分では虚弱だから仕方ないと思っていた不調の原因が思わぬところから発見されるケースもある。治療して虚弱が少しましになることもある。
医師は自分の専門分野を極め、診察や研究と並行して最新の知見にも触れ続けているプロフェッショナルだ。そうした医師に定期的に診察してもらっていると、医療の変化も教えてもらえる。例えば、服用している薬のジェネリックが出て安価に使えるようになった、より副作用の軽い新薬が出た、気軽に使える装具が発売される、などだ。実際私も医師に教えてもらって経済的にも身体的にも負担の軽い薬に変更した経験がある。
人体とは複雑で、医師ではない私には想像もつかないところがつながっていたり、思いもよらない対処法があったりする。台風などで気圧が乱高下すると頭痛や眠気に悩まされると相談したら、漢方を試してみないかと提案された。実際この漢方は私によく合っていて、頭痛や眠気を消してはくれないものの、ましにしてくれた。自分一人では思いつかなかった選択肢である。
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フリーランスは被雇用者と違い、健康診断もない。自分で安くはない金額を払って受けに行かなくてはならない。しかし、何らかの不調があれば、それは保険で診療されるべきものになる。不幸中の幸いかもしれない。
定期診察、それに伴う定期検査は虚弱に対処する最新知見に出会う機会であり、経済的負担を重くせず病気の早期発見につなげる大切な場といえる。
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虚弱な人々こそ、働き、生活し、日々を楽しむために医療から離れられない。そしてどうか離れないでほしい。
そして虚弱を軽視せず症状や生活の改善に向き合う医師に出会えたら、自分の症状やその改善について相談し、虚弱との終わりなき生に伴走してもらう関係を築いてみてほしい。
一つ気をつけてほしいのは、高額な自由診療だ。高額な自由診療がすべて悪いのではない。自由診療とされているが、それなりにエビデンスがあるもの、エビデンスが弱いどころか健康被害のあるものなどさまざまだ。自由診療の治療法を提案されたときは自分で調べて判断するのが大事だ。最近は生成AIもちゃんと答えてくれるので、いくつかのAIに同じ質問をしてみて判断に使うのもおすすめだ。
何か病名がついたときはそれを調べてみるのもいい。原因不明の虚弱そのものが不安を増幅するタイプであれば、自分の不調に名前がつき説明があると安心して対処法を考えられる。逆に知ることで不安になる人は深く調べない選択をおすすめする。
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虚弱でフリーランスをしていると、可処分時間も少なくなる。それなのに病院に通うのかと気が重くなる方もいるかもしれない。けれど、症状が悪化したり大病したりしたときの損失はその比ではない。時間、お金、気力、体力、健康。ありとあらゆるものを奪っていく。それなら大病するときよりは少ないコストを払って大病を予防しておく方が合理的だ。
働き続けるためには医療を利用し、困難を記録してもらい、社会保障と接続し続ける必要がある。障害者手帳がないと、税金の障害者控除も受けられないのだから。医療との接触は生きて働くための戦略だ。
