学生の私が〈エリア・スタディーズ〉を楽しんだ3つの方法(額田有美)
世界の国と人を知るための知的ガイド〈エリア・スタディーズ〉シリーズがおかげさまで遂に200巻を突破しました!
この節目を記念して始まった連載「わたしとエリア・スタディーズ」では、 〈エリア・スタディーズ〉に触発され、さまざまな研究を行う若手研究者たちの経験やエピソードを紹介しています。〈エリア・スタディーズ〉が探求する多様なテーマに関連する体験や研究の裏話、そして〈エリア・スタディーズ〉を通じて感じたインスピレーションに焦点を当て、シリーズに寄せるメッセージをお届けします。
第8回は、学生時代から「海外好き」で、現在は中米コスタリカの「先住民である」と自認する人びとの現状などを研究されている額田有美さんに、ご自身の大学生時代を振り返り、編集担当者もあっと驚いた当シリーズの特長をご紹介いただきます。
私が通っていた大阪大学(旧大阪外国語大学)箕面キャンパスの図書館には〈エリア・スタディーズ〉のほぼ全巻が揃っていた。当時私は、授業の合間にその日の気分で選んだこのシリーズの一冊をお供に、図書館内のソファーコーナーでまったりした時間を過ごすのが好きだった。「読書家」からはほど遠かった私が、なぜ、かなりの頻度でそのような「読書タイム」を過ごしていたのか? それはおそらく〈エリア・スタディーズ〉ゆえの楽しみ方があったからだ。
1つ目の楽しみ方、それは写真だ。特にカバー写真はこのシリーズの魅力だ。どれも目を引くものばかりだが、大多数のガイドブックで選出されているような「この国ならこれ!」というお決まりの景色や建物を映した一枚が選ばれている訳でもない、というのが良い。その国に暮らす「普通の人びと」が表紙を飾っているものも少なくないのだ(※「普通」という言葉は不適切かもしれないが、当時の私の印象を素直に表す語として敢えてこのまま使いたい)。たとえば、何度も読んだ『コスタリカを知るための55章』のカバー写真は、白シャツに紺色パンツ・スカートという制服姿の子どもたちだ。正直に言うと、最初は「なぜこの写真?」と疑問に感じたが、本文をよく読んでからもう一度見直すと、「ああ、あの章に書かれていた内容かぁ。だからこの一枚なんだ!」と納得した。
まだカバー写真にはなっていない「普通の人びと」を映した一枚(2023年8月、コスタリカ共和国アルト・チリポ先住民居住区にて額田撮影)
2つ目の楽しみ方は、各章のタイトルだ。どの章から読み始めても良いように設計されているこのシリーズだからこそ、「ぜひこの章を読んで!」と訴えかけてくるようなタイトルが多い。たとえば、私がコラム執筆で参加した『コスタリカを知るための60章【第2版】』には、「鉄道を完成させたバナナ ジャングルを拓いた美味なるトロピカル・フルーツ」、「軍隊をすてた生き方 どこまで天然? 非武装平和外交の真相」、「政界のマチスモは昔話? 女性の議員増加と大統領就任」、「神話「白人国」 多民族・多文化社会の現実」等、早くページをめくりたくなる見出しが並んでいる。タイトルを見たときのワクワク感は、本文を読んでも裏切られない。わずか4頁ほどから成る各章の本文は、タイトルどおり、おもしろい。
そして3つ目の楽しみ方は、ブックガイドとしての機能だ。このシリーズはどの一冊にも末尾に文献案内や参考文献が記載されているが、私がここでいうブックガイドとはその意味だけではない。〈エリア・スタディーズ〉の執筆者は、当該エリアについてすでに書籍や文章を残している方が多い。そのため、このシリーズに参加している執筆者の氏名が、当時の私にとってはブックガイドだったのだ。図書館の検索キーワードに執筆者の氏名を入力する。そうすれば、「あ、この方はこんな本も書いていらっしゃるのか」と次の出会いへとつなげてくれた。
きっと他にも色々な〈エリア・スタディーズ〉の楽しみ方があるはずだ。機会があればぜひ教えてください。