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エリア・スタディーズ200巻突破記念連載 「わたしとエリア・スタディーズ」

「知る」のきっかけ、「学ぶ」のはじまり(土井冬樹)

世界の国と人を知るための知的ガイド「エリア・スタディーズ」シリーズがおかげさまで遂に200巻を突破しました! この節目を記念して、本シリーズに新しい一面を加えるべく、新たな連載「わたしとエリア・スタディーズ」を始めます。 「エリア・スタディーズ」に触発され、さまざまな研究を行う若手研究者たちの経験やエピソードを紹介します。エリア・スタディーズが探求する多様なテーマに関連する体験や研究の裏話、そしてエリア・スタディーズを通じて感じたインスピレーションに焦点を当て、シリーズに寄せるメッセージをお届けします。

第3回は、ニュージーランドのマオリの人びとの研究をしている、文化人類学者の土井冬樹さんにご執筆いただきました。

 

 

実のところ、『ニュージーランドを知るための63章』は、私が買った初めてのニュージーランド関係の本だった。

 

私は、大学に入った当初から、ニュージーランドの先住民マオリについて、文化人類学的な研究をしたい、と思っていた。にもかかわらず、ニュージーランドについてはほとんど知らなかった。当時の私は、マオリのことを知ることと、ニュージーランドのことを知ることは全く別のことだと考えていたらしい。だから、マオリの文化については知ろうと思っていても、ニュージーランドのことを知らなくてはいけないとは考えていなかったのだ。

 

無事に大学の文化人類学コースに入ると、文化人類学に関する博物館を訪れるというコースのプログラムの一環で、愛知県のリトルワールドを訪れた。文化人類学コースに入ったばかりで、喜び勇むと同時にどうやって研究したものかと考えていた私は、リトルワールドで、マオリの研究をしている学芸員がいることを知って、お会いしたいと連絡を取った。初めて自分の所属する大学以外の研究者と話す機会だった。そのとき、彼に教えてもらった本の一つが、『エリア・スタディーズ ニュージーランドを知るための63章』だった(それだけ、ニュージーランドの基本的なことを当時の私が知らなかったことがよくわかるエピソードだと改めて感じる)。

 

エリア・スタディーズは、私の個人的な経験から言わせれば、そのテーマの入門書として最適だった。『ニュージーランドを知るための63章』は、まずニュージーランドという国の地理と自然や植生から始まる。繰り返すが、当時の私は、ニュージーランドを知ること自体を重視していなかった。そのため、地理や植生についての章は飛ばして、「マオリの到来」というセクションから読み始めようかと迷ったことを覚えている。しかし、意を決して最初から読んでみると、ニュージーランドの地理や植生が、いかにマオリの生活と密接であるかが書いてあるではないか!

 

ニュージーランドの福祉や教育、政策などのことも、それまでほとんど調べようとすらしなかったが、エリア・スタディーズを通して知ることになった。そのうち、そうしたことを知ることの重要性にも気付かされた。なぜなら、地理や植生だけでなく、現代のニュージーランドの様々なことがいまを生きるマオリと関わっているからだ。そんな当然のことだが、とても大切なことに気がつかせてくれたのが『ニュージーランドを知るための63章』だった。私にとっては単にニュージーランドを知ること以上に重要なことを教えてくれる入門書だったわけである。感謝しかない。

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