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トランスジェンダー問題――議論は正義のために

『トランスジェンダー問題』推薦のことば(小山エミ)

『トランスジェンダー問題――議論は正義のために』日本語版の刊行にあたり、小山エミさん(シアトル在住活動家、脱植民地化のための日米フェミニストネットワーク共同創設者、性労働者の権利と安全のための連帯代表)からいただいた推薦文を紹介します。


ショーン・フェイ『トランスジェンダー問題』を最初に手に取ったときは、それほど期待していなかった。むしろ、生きている人間であるトランスジェンダーの人たちのことを「問題」扱いするとは何事か、と思っていた。

しかしそれこそが著者の狙いで、生きている人間であるにもかかわらず当人たちの生からかけ離れたイデオロギー的議論の対象として、すなわち「問題」として、トランスジェンダーの人たちが消費され、隠蔽され、簒奪されている事実を正面から問い直し、トランスジェンダーの人たちが生きている経験をもとに社会的「問題」を捉えなおそうとする戦略だ。

反対派によってでっち上げられた「論点」に反論するのではなく、トランスジェンダーの立場から身体性、経済格差、労働、国家による暴力、社会的連帯について論じられたこの本は、トランスジェンダーのコミュニティや運動や学問的コミュニケーションに二十年以上関わっているわたしから見て、専門家や研究者といった限られた集団に向けたものではなく、また人事関係者などを対象にした入門書でもない、ひろく一般の読者にお勧めできるはじめてのトランスジェンダーについての本だと思う。

小山エミ(シアトル在住活動家、脱植民地化のための日米フェミニストネットワーク共同創設者、性労働者の権利と安全のための連帯代表)

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