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現代文化見聞録

スパイスカレーの魅力に迫る 〔今西 雅〕

町を歩いていると、様々なところでカレーを目にする。カレー専門店、洋食屋のカレー、ファミレスのカレー、喫茶店のカレー、食堂のカレー、コンビニのカレー…。「カレー専門店」と一口にいっても、ルーカレー、インドカレー、スパイスカレーと出されるカレーや店構え、店内の雰囲気は多様である。特に最近、スパイスカレーを出す店が目立つ。

いったいなぜ? 今西雅さんがとった研究の方法は、文献を調べ、実際にカレーを食べ、作り手に話を聞き、最終的には自分でも作ってみる、というものだった。まさに現代カレー見聞録。記事を読んで、身近なカレーに想いを馳せていただければ幸いである。(岡本健)


 

スパイスカレーの魅力に迫る

今西  雅

 

子供の頃の大好物といえば、甘口のカレーだった。林間学校の時にクラスのみんなで作った思い出もある。皆さんもカレーにまつわる何らかのエピソードを思い浮かべることができるのではないだろうか。

そんなカレーに、最近では大人たちがこぞってはまっている。現に書店の料理本のコーナーには、カレーのレシピや美味しいお店の紹介などのカレーコーナーが大きく設けられている。さらに、朝日放送テレビ「今ちゃんの『実は』」では中津がカレー激戦区と紹介されていたり、テレビ大阪「おでかけ発見バラエティ かがくdeムチャミタス!」では裏谷四(谷町四丁目から堺筋本町の間のエリア)が超激戦区と紹介されるくらい、大阪には老舗のカレー屋さんから、最近新しくできたカレー屋さんまで、多様なカレー屋さんが見られる。

中でも今はスパイスカレーが大ブームを起こしている。このブームのせいか、スパイスカレーファンが増えてきており、現に私もスパイスカレーが大好きではまっている。そんな、スパイスカレーの魅力とは一体何なのか。その秘密に迫っていきたい。

カレーライスは日本で生まれた料理である。そのように聞いて「え? インドが発祥の地なのでは?」と疑問に思った方もいるだろう。森枝卓士の『カレーライスと日本人』には、インドで使われている言語にカレーという呼称、料理は存在しないと記されている(森枝 2015: 37)。

では、インドで何と呼ばれているのだろうか? 日本でカレーと呼ばれている料理は、スパイスで具材を煮込んだ汁状の料理とされ、インド人はマサラ、コルマ、サブジなどと調理法により異なる呼び方をしている。他にも、インドではご飯ではなく、ナンをカレーにつけて食べるのが一般的である。

しかし、ここで誤解はしないでほしい。「香辛料と食文化」という論文の中で、日本にも香辛料の文化がこれまでにあったと論じられている。712年に編纂された古事記にはショウガや山椒、わさびなどの和風香辛料が文章中に登場している。江戸時代後期には唐辛子が日本に上陸し、七味唐辛子が生まれた。これは唐辛子などの7種類のスパイスを混ぜ合わせた、日本独自のミックススパイスの誕生である。

日本では少なくとも700年代から香辛料の存在があり、江戸時代後期にまでなると、独自のスパイスが完成されるほど香辛料と日本人とのつながりは強かった。

水野仁輔は『カレーライスの謎 なぜ日本中の食卓が虜になったのか』の中で、日本へのカレー伝来について2つの説を唱えている。それは、札幌農学校のクラーク博士がカレーを伝えたという説と、横浜開港から伝わったという説だ。カレー伝来となると、時代的にも1859年にペリー来航で横浜港が開港したことでカレー粉という新しいスパイスが日本にやってきた説の方が有力だと書かれている(水野 2008: 29-30)。それをきっかけに、カレーとお米を掛け合わせた料理、カレーライスが日本で誕生したのである。

日本人とスパイスとの関わりは実はかなり長く、深い。すると、カレーライスを生み出したことにも納得がいく。

家庭ではよく隠し味にコーヒーを入れてコクを増したりするように、カレーは色々と細かい味の調整ができる。簡易なレトルトカレー、子供でも食べられる甘口のカレー、ひき肉をメインの具材とした日本発祥のドライカレー、本格的なスパイスが効いたスパイスカレーなど、カレーと一括りにするには多すぎるくらい色々な種類がある。

最近はこのスパイスが効いた本格的なスパイスカレーが圧倒的に人気だ。そしてスパイスカレーにプラスで変わった具材、例えば私が食べたことがあるものでいうと、燻製のウズラ卵や万願寺唐辛子がカレーの中に入っているものや、和風だし風味のスパイスカレー、麻婆豆腐カレーなどがある。このように店主が色々なアレンジをし、だんだんとカレーは日本独自の展開をしてきているのだ。

 

「カレー記号」のあいがけカレー。左がチキンマサラ、右は麻婆豆腐カレー。

それでは、カレーの「今」を把握してみよう。カレー激戦区とも言われている関西地方で多種多様なカレー屋さんを訪れ、スパイスカレーを食べ、店主の方にインタビューをしてきた。

まず初めは、谷町四丁目の洋食料理屋にランチを食べに行った時のシェフへのインタビューである。私は洋食カレーを頼んで食べた。その際に興味深い話が聞けた。そのシェフは「最近は洋食カレーよりもスパイスカレーが流行しています」と言ったのである。すかさず私は「ちょっとそのお話詳しく聞かせてください」とお願いした。

シェフによると、洋食カレーは決められた分量、決められたカレー粉を混ぜて作る。それに対してスパイスカレーはスパイスの分量も使うスパイスの種類もその店主の自由だ。つまりスパイスカレーとは何百通り、何万通りと数えきれない種類を作ることができるのだ。この点にスパイスカレーを食べにくる人は魅力を感じるのだろう。このことから、カレーファンがカレーを食べに行き続ける理由として、他の店ではどんなスパイスの調合をしているのだろうと興味がわくからではないかと考えた。

次に、親子で経営しているスパイスカレー屋さんにインタビューをした。近畿大学の近くにあるお店で、名前は「カレー記号」である。ここのオーナーにインタビューをしてみると、とてもおもしろい話が聞けた。

カレー屋さんを始めたきっかけは、昔カレー屋さんでアルバイトをしていたことを思い出したからだとオーナーは言う。もともと同じところでカフェを経営していたが客足が伸び悩み、思い切ってカレー屋さんにお店を変えたのだ。カレー屋さんに変わってからは、学生の客でお店は賑わったそうだ。

「カレー屋さんでアルバイトをしていたということは、元々カレーが好きだったんですか?」と私は質問した。オーナーは「いえ、実はカレーを好きになったのはカレー屋さんを自分がするようになってからなんです」と意外な答えが返ってきた。カレーを実際作ってみると、玉ねぎを1時間以上炒め続けてルウになる瞬間や、新しいメニューを考えている時がおもしろいとオーナーは言う。

オーナーからスパイスカレーは3つのスパイスがあればできると聞いたので、私も実践してみた。初めはインターネットでレシピを検索し、手順から、スパイスの量まで一寸狂わずきちんと測ってその通りに作ってみた。レシピ通りにしたからオーソドックスな美味しいスパイスカレーができあがった。オーナーが言っていた通り本当に3つのスパイスだけで簡単にスパイスカレーができたことに驚いた。

もっと自分好みにアレンジしたいという欲が出てきたので、スパイスの量を自分好みに調整した。何回か挑戦していくうちに、もう少し辛さを出すスパイスを足してみようとか、ここにココナッツを足してみようとか自分好みのカレーを作ることができた。

 

自作のスパイスカレー。

スパイスカレー屋さんを訪れ、インタビューをした結果、世の中には何万通りものスパイスカレーがあることが判明した。たくさんのスパイスカレー屋さんを訪れたが、同じ味は1つもなかった。どのお店も独自に工夫されたアレンジにより、カレーの味に店のオリジナリティが溢れていた。

さらに、私が実際にスパイスカレーを作ったからわかったことがある。スパイスカレーには、食べる魅力だけでなく、自分で作るという魅力も兼ね備えているのだ。自分の好みに調合されたスパイスカレーは唯一無二のカレーとなる。これらの魅力に取り憑かれた人たちは、今日もこぞってカレーを食べに行くのだろう。

 


【参考文献】

水野仁輔『カレーライスの謎 なぜ日本中の食卓が虜になったのか』角川SSC新書、2008

森枝卓士『カレーライスと日本人』講談社学術文庫、2015

小島和彦「香辛料と食文化」『表面と真空』628: 522-5242019

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著者略歴

  1. 今西 雅(いまにし・みやび)

    近畿大学総合社会学部3年
    趣味はピアノ演奏で、大学ではダブルダッチサークルに入ってます。何歳になっても、ジャンルを問わず色々なことにチャレンジするのが好きです!
    新しい世界に触れることで日々感性を磨いています。

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