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娘の不登校から見た日本の学校や社会のあれやこれや——子ども・若者支援の専門家が20年目に当事者になった話

先生が来ない!

 

不安なクラス替え

とても楽しく1年生を過ごした娘でしたが、2年生になるとクラス替えがあるとのことで、ドキドキの新年度を迎えました。「●●ちゃんと、▲▲ちゃんと、同じクラスになりたいな。■■とか、××と一緒のクラスはやだなー」など、自分なりに理想のクラスになるよう祈っているようでした。


そもそも、私たちが、2年生に上がるときにクラス替えがあるということを知ったのは、娘が入学してだいぶ経った頃でした。「小学校のクラス替えは2年に1度」と自分の経験から思い込んでいたのですが、娘の学校は毎年全学年クラス替えがあるのだそうです。「以前に学級崩壊しすぎて大変だった学年があったから、2年に1回から毎年全学年クラス替えになったらしいよ」なんて噂が、保護者の間でまことしやかに流れていました。


夜、放課後児童クラブに迎えに行った帰り道。早速、娘に新しいクラスについて聞いてみました。


「●●ちゃんと、同じクラスになれなかったー」
「■■が同じクラスにいる」


など、娘からはネガティブな話しか出てきませんでした。そもそも1年生の時に一番仲の良かった保育園の頃からの友達は、この4月から海外に行ってしまうということで転校してしまっていたのですが、家に帰ってクラス名簿を見ると、1年生のクラスや放課後児童クラブで仲良しだった友達は、同じクラスに一人もいませんでした。


代わりに、昨年のクラスで一緒に遊ぶ時に折り合うことが難しく、ケンカになったりして苦手としていた女の子たちや、授業中に「そんなの知ってるよ」と先に答えを喋り始めてしまうので嫌だと言っていた男の子たち、そして放課後児童クラブで暴力をふるうので怖いと言っていた男の子の名前などが並んでいました。「運が悪いなぁ…。なんでここまで仲の良い子がいないクラスにされちゃったんだろう…」

教員不足の波がくる

もう一つ驚いたことがありました。なんと、「担任の先生がいない」のだそうです。娘が持って帰ってきたもう1枚の紙を見ると、確かに「教員配置の遅れ」で担任が決まっていない旨が書かれていました。新入生が例年より1クラス多かった関係で、学校全体として1クラス増えており、その分の教員配置が間に合わなかったのだそうです。仕事柄「教員不足」についてはよく聞いてきましたが、いよいよわが家の娘がその煽りを受けることになりました。その前年度当初時点で全国の小学校で1,218人の教員が不足しているとされていました*1。東京都では不足教員数は0人とされていましたが、教育関係者の間では、「実感から乖離している。何かおかしいのではないか?」なんて囁かれていました。


娘のクラスは、正規の先生が着任するまで、本来担任を持たない予定だった算数の専科教員が仮の担任としてクラスをみてくれるということです。昔と違い現在では、音楽や図工以外でも、理科や算数、外国語などを専門に教える専門の先生が多くの学校にいます(文部科学省は、特に高学年でこうした「教科担任制」を推進しています*2)。娘の学校でも、学年が上がると算数は専科教員が教えてくれるというのは聞いたことがあったのですが、ここにきて「ピンチヒッター」として、担任の代わりを務めてくれるということです。


それにしても、元々低学年の担任をする準備をしてきていないだろう先生が、いつ来るかわからない「正規の先生」が来るまでの間、臨時でクラスを担任するなんて、想像してみると厄介な仕事です。本来、クラス運営というのは、子どもたちの成長や学年に合わせて、年間通じての見通しを持って、計画して行われるものなのではないでしょうか。何をいつまで受け持つのかわからない、後にどんな個性や考え方を持った先生が来るかもわからない、そんな見通せない状況で、腰の座らないピンチヒッターをするのでは、できることもできないように思います。教員ではないけれど、日頃子どもたちと接する仕事をしている私からみると、なんだか先生が気の毒な気持ちになりました。

学級が崩壊

3、4日経った頃、娘のクラスはどうも「学級崩壊」したようでした。授業中、立ち歩く子どもたちがいて先生が怒鳴ってばかりだと言います。娘は、自分まで怒られているような気持ちになって嫌だ、と話すようになったのです。


元々、1年生の時も隣のクラスでは立ち歩いている子どもがおり、なかなか自由で大変だと聞いたことがありました。立ち歩くだけでなく、感情や行動のコントロールがまだ難しいのか、反射的に暴力をふるってしまったという話も聞こえてきました。ちょうどそのお子さんが同じクラスになったのですが、聞いてみると1年生の時には娘と同じクラスで、うるさいけれど、座って授業を受けていて、そこまで授業を妨害するわけではなかった子ども何人かも、一緒に立ち歩くようになったと言います。クラスの中で化学変化が起こったようです。


話を聞くに、原因の一つは授業のようでした。たとえば、国語の授業は、教科書を3回書き写して、漢字を1行ずつたくさん書いてという、ノートにひたすら書くだけのものだったそうです。代わりの先生が「授業をする」というより、先生がいないクラスの「自習を監督」している空き時間の先生という様相です。娘自身も、「意味わかんない」「つまんない」と言います。


1年生の時も、それほど国語は好きではなかった娘ですが、それでも担任の先生はベテランの1年生担任のスペシャリスト、漢字一つひとつについていろんな読み方や使い方を教えてくれてもっと楽しかったそうです。これでは、すっかり「漢字嫌い」になってしまいそうなので、週末に今週習った漢字を家で一緒に色々調べたり、使ってみたりしようね、ということにしました。漢字の成り立ちや使い方など、一緒に勉強したら大人も結構面白そうです。


ちなみに、算数の授業も同様で、あまり面白くないと言います。考えてみれば、高学年の算数の専科の先生ですから、低学年の国語はもちろん、算数の授業の準備がなくても仕方ないのかもしれません。


とはいえ、ただでさえじっとしているのが苦手な低学年の子どもが、そんなつまらない課題を1日中やらされたら、反乱が起こるのも無理からぬように思いました。大人で例えたら、こんなICTの発達した、イノベーションの価値が言われる時代に、アナログで定型的な紙の書類を何枚も書く単純業務に従事させられる、と言ったら良いでしょうか。こうした業務が重要である組織もあるでしょうし、向いている人もいるでしょうが、少なからぬ人が「自分は何をやっているのだろう?」と働く意味の喪失を感じて転職したくなったとしても不思議はない、といったところでしょう。子どもたちも先生も、どちらも不幸な状況です。

学校運営どうなってるの?

そんな心配な状況の中、職場の休憩時間に、同じ年頃の子どもを持つ中堅スタッフと話していた時です。いつもの子育てトークで新年度の娘の状況を話しながら、会話の中から、ふと私はこんなことを言いました。

 

「しかし、本来担任を持つ予定じゃなかったこの先生を、チームで支えるとか、学校ってそういうのないのかね。うちの現場で人手足りないところとか出たら、他から応援だせないかって話しするよねぇ? まぁ、してるのにどうしようもないのかもしれないけど」

 

学校で働いたことのない私たちですが、子ども若者の居場所づくりや支援事業を行っている団体の役員や管理職です。この話題は盛り上がりました。

 

「だいたい今いじめが一番多いのは小学校2年生*3だし、元々1年生の時に結構大変そうだった子がいたりするのに、なんでそこのクラスが担任不在って人事になったんだろうね?」

 

いつまで担任不在が続くかわからない不安な新年度に、話せる仲間がいることに感謝しながら、学校運営にそんな疑問が次々湧いてくる昼休みでした。

 

*参考
1 文部科学省 「教師不足」に関する実態調査(令和4年1月)
2 文部科学省 義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方について(報告)(令和3年7月)
※この年の教科担任の実際の配置状況については、文部科学省「令和4年度公立小・中学校等における教育課程の編成・実施状況調査」の結果で確認することができる。
3 文部科学省 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査

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著者略歴

  1. 鈴木 晶子(すずき・あきこ)

    NPO法人パノラマ理事、認定NPO法人フリースペースたまりば事務局次長・理事、一般社団法人生活困窮者自立支援全国ネットワーク研修委員。臨床心理士。
    1977年神奈川県に生まれ、幼少期を伊豆七島神津島で過ごす。大学院在学中の2002年よりひきこもりの若者の訪問、居場所活動に関わり、若者就労支援機関の施設長などを経て2011年一般社団法人インクルージョンネットかながわの設立に参画、代表理事も務めた。その傍らNPO法人パノラマ、一社)生活困窮者自立支援全国ネットワークの設立に参画。専門職として、スクールソーシャルワーカーや、風俗店で働く女性の相談支援「風テラス」相談員なども経験。内閣府「パーソナル・サポート・サービス検討委員会」構成員、厚生労働省「新たな自殺総合対策大綱の在り方に関する検討会」構成員等を歴任。2017年に渡米。現地の日系人支援団体にて食料支援のプログラムディレクター、理事を務めた。2020年帰国。現職。著書に『シングル女性の貧困――非正規職女性の仕事・暮らしと社会的支援』(共編著、明石書店、2017年)、『子どもの貧困と地域の連携・協働――〈学校とのつながり〉から考える支援』(共編著、明石書店、2019年)他。

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