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オックスフォード哲学者奇行

「哲学者を温ねて哲学を知る」ブックリスト30【選書と紹介 児玉聡】

哲学者の人生を知ることは
その哲学を理解する一助になる……かも!

英国オックスフォードを舞台として、天才的・変人的な哲学者たちの人間臭い関係を描き出した児玉聡『オックスフォード哲学者奇行』(明石書店)。英国哲学は日本の出版界でも注目を集め続けており、翻訳や関連書の刊行が相次いでいます。

このたび哲学の歴史から最先端の応用倫理学まで広範な動向に詳しい児玉さんが、本書では紹介しきれなかった面白い哲学・思想・文化関連書も含めてイチオシの30冊をピックアップ。

波乱万丈な哲学者の人生を知ることからはじめる哲学入門。
本書とこのブックリストを手がかりに、いざ哲学の世界へ――

冊子版ブックリストと特製ポストカードはフェア開催店舗にて無料配布しています。どうぞご自由にお持ち帰りください。

フェアは2023年8月末からの京都大学生協ショップルネさまを皮切りに、各地で順次開催予定です。

 


児玉 聡『オックスフォード哲学者奇行』(明石書店)刊行記念フェア

「哲学者を温ねて哲学を知る」ブックリスト30

【選書と紹介 児玉聡】


[1]

ハエとハエとり壺――現代イギリスの哲学者と歴史家

ヴェド・メータ(著) 河合秀和(翻訳)

みすず書房、1970年 ★品切・絶版

1950年代のオックスフォード哲学を批判したゲルナーの話を枕にして、ジャーナリストのメータが60年代当初のオックスフォード大学の研究者たちをインタビューする話。哲学者たちの生態がわかって面白い。

 

[2]

心の概念

ギルバート・ライル(著) 坂本百大・井上治子・服部裕幸(翻訳)

みすず書房、1987年

「ゴースト・イン・ザ・マシーン!」「カテゴリー・ミステイク!」「ノウイングハウ&ノウイングザット!」と、次々と必殺技が繰り出される心の哲学の古典であり日常言語学派の代表作。原文には一切註がなくて潔い。

 

[3]

法哲学者H.L.A.ハートの生涯――悪夢、そして高貴な夢〔上〕〔下〕

ニコラ・レイシー(著) 中山竜一・森村 進・森村たまき(翻訳)

岩波書店、2021年

本書を読むと、ハートは法哲学者のジョン・オースティンだけでなく、同僚の日常言語学派のJ.L.オースティンにも大きな影響を受けていたことがわかる。日記も用いてハートの内面を存分に描き出した、優れた伝記。

 

[4]

英国の曲線(『出隆著作集 第5巻 哲学史余話』所収)

出 隆

勁草書房、1963年 ★品切・絶版

アリストテレス研究者の出隆(いで・たかし)が英国留学中に書いたエッセイをまとめた1939年の著作。クライストチャーチにあるロックの肖像画やバークリの誤りのある墓碑銘の話等も出てきて面白い。

 

[5]

倫理学ノート

清水幾太郎

講談社、2000年

社会学者による倫理学の研究書。後書きのような「余白」の中で、敗戦直後にムーアの『倫理学原理』を読んでわからなさすぎて投げ出したと書いてあるところが印象深い。小熊英二の『清水幾太郎』という評伝もお勧め。

 

[6]

『思想』2022年9月号(no.1181)G.E.M.アンスコム

『思想』編集部(編集)

岩波書店、2022年

最近アンスコムの『インテンション』の新訳が出たが、初心者には歯が立たないので、本号の小特集を読んで地ならしをしてから取り組むとよいだろう。私も「その生涯と思想についての講義録」という拙文を奇行した。

 

[7]

ウィトゲンシュタイン――天才哲学者の思い出

ノーマン・マルコム(著) 板坂 元(翻訳)

平凡社、1998年 ★品切・絶版

教え子のノーマン・マルコムによる回想録。魂を削るような講義後、気分転換にアメリカ映画を見る話や、アメリカから推理小説雑誌を送ってもらうのを楽しみにしていた話などが印象的。レイ・モンクによる伝記も名著。

 

[8]

カント伝

マンフレッド・キューン(著) 菅沢龍文・中澤 武・山根雄一郎(翻訳)

春風社、2017年

カントは時間に几帳面だったとか、妹に教養がないことを友人に謝っていた等の逸話が知られるが、不正確な話も多い。本書は彼の人生と思想のつながりを論じた優れた哲学的伝記。2017年に出された翻訳は残念だが絶版。

2023年9月12日追記。訳者の一人から、本年5月に重版されたとの指摘があった。カント研究者の某氏も、自分が買う前に初版が売り切れていたという話をしていたので、ぜひ売り切れになる前に書店に走っていただきたい。

 

[9]

言語・真理・論理

A. J. エイヤー(著) 吉田夏彦(翻訳)

筑摩書房、2022年

若さ爆発。新婚旅行がてら行ったウィーンで論理実証主義を学び、20代半ばに書いた短い本。形而上学、道徳、宗教、美学などに関する文はみなナンセンスだと一刀両断し、戦後オックスフォード哲学の出発点になった。

 

[10]

アイザイア・バーリン

マイケル・イグナティエフ(著) 石塚雅彦・藤田雄二(翻訳)

みすず書房、2004年 ★品切・絶版

拙著ではオースティンやハートの友人として脇役的に登場したバーリンの伝記。ロシア革命時に英国に亡命し、オックスフォード大学で学んだ後、冷戦期には自由主義を擁護する知識人として活躍した偉大な政治哲学者。

 

[11]

物語「京都学派」――知識人たちの友情と葛藤

竹田篤司

中央公論新社、2012年

まだ西田幾多郎や田辺元の哲学を面白いと思ったことはないが、京都学派の人々の人生を描いた本書は大変面白い。「元様 私に死ねと?」「フッサールと「ペッサール」」等の見出しも秀逸。Kindle版も出版希望。

 

[12]

ギリシア哲学者列伝〔上〕〔中〕〔下〕

ディオゲネス・ラエルティオス(著) 加来彰俊(翻訳)

岩波書店、1984・1989・1994年 ★品切・絶版

数年前、元同僚の先生が古代哲学者のゴシップに溢れた本書を絶賛していて、「しかしこんな本、今だったら名誉毀損で訴えられるでしょう」と言っておられたが、この本に倣って書いた拙著をどうか訴えないでください!

 

[13]

哲学の女王たち――もうひとつの思想史入門

レベッカ・バクストン/リサ・ホワイティング(著・編集) 向井和美(翻訳)

晶文社、2021年

女性知識人20名を簡単に紹介した著作。オックスフォードの哲学者としては、アンスコム、マードック、ミジリー、ウォーノックの4人が手際よく紹介されている。彼女らの自伝や伝記は翻訳がないのでその意味で貴重。

 

[14]

理由と人格――非人格性の倫理へ

デレク・パーフィット(著) 森村 進(翻訳)

勁草書房、1998年

「形而上学は哲学の慰めを生み出すことができる」と著者が言うように、思考実験を多用した人格概念の分析により、様々な驚くべき実践的結論が出される。ロールズの『正義論』同様、分厚い訳書は凶器になるので注意。

 

[15]

人間にとって善とは何か――徳倫理学入門

フィリッパ・フット(著) 高橋久一郎(監訳)

筑摩書房、2014年

アンスコムの「現代道徳哲学」の問題意識を受け継ぎ、アリストテレス的な徳倫理学へと回帰。本書を出すのが遅すぎて、「哲学を十分にゆっくりすることは不可能だ」というウィトゲンシュタインの格言を図らずも反証。

 

[16]

生き方について哲学は何が言えるか

バーナド・ウィリアムズ(著) 森際康友・下川 潔(翻訳)

筑摩書房、2020年

書名の問いについて、大したことは言えないというのがウィリアムズの答え。彼の道徳批判はアンスコムだけでなくニーチェの影響も強く感じられる。難解なのでまずシンガーの『私たちはどう生きるべきか』を勧めたい。

 

[17]

私たちはどう生きるべきか

ピーター・シンガー(著) 山内友三郎(監訳)

筑摩書房、2013年

「なぜ自分の得にならないことをしないといけないのか?」という問いはいつの時代にも提起される哲学的な問いだが、シンガーによる本書はこの問いから出発して人生の意義まで説く優れた倫理学の入門書になっている。

 

[18]

動物の解放〔改訂版〕

ピーター・シンガー(著) 戸田 清(翻訳)

人文書院、2011年

1975年に出版された本書は、哲学が社会に多大な影響を与えた一例として語り継がれるだろう。動物実験と工場畜産の現状を告発することを通じて人間と動物の関係の見直しを要求。『飢えと豊かさと道徳』もお勧め。

 

[19]

哲学の現在――世界の思想家15人との対話

ブライアン・マギー(編) 磯野友彦(監訳)

河出書房新社、1983年 ★品切・絶版

1970年代半ばにBBCが放映した番組の書籍化。バーリン、エア、ヘア、マードック等の錚々たる顔ぶれが哲学について語る。マギーの『哲学人』によると、当時、大きな反響があったそうだ。日本でもぜひ同様の企画を。

 

[20]

道徳的に考えること――レベル・方法・要点

R. M. ヘア(著) 内井惣七・山内友三郎(監訳)

勁草書房、1994年

若い頃の『道徳の言語』は通読が難しいが、円熟期に書かれた本書はそれなりに楽しく読める。具体例で出てくる戦争関連の話は、彼の戦争体験を知っていると感慨深い。現在、絶賛絶版中だが、復刊検討中との噂である。

 

[21]

現代倫理学基本論文集II 規範倫理学篇①

大庭 健(編)

勁草書房、2021年

アンスコムの「現代道徳哲学」が収録されている。他にも、現代の契約論的倫理学や徳倫理学の論考が訳されている。監訳者解説も〇。現代の哲学研究は論文が主戦場なので、今後もこうした論文集をぜひ出版してほしい。

 

[22]

言語と行為――いかにして言葉でものごとを行うか

J. L. オースティン(著) 飯野勝己(翻訳)

講談社、2019年

死後に出版されたオースティンの講義録。「いかにして言葉でものごとを行うか」という副題(原著の書名)の通り、結婚式で「誓います」と発話するのは宣誓するという行為であり何かの記述ではない。訳者解説も丁寧。

 

[23]

哲学の歴史11 論理・数学・言語

飯田 隆(編集)

中央公論新社、2007年

飯田隆が「日常言語の哲学」としてライル、オースティン、ストローソンなどを解説。女性哲学者への言及がないのが少し残念だが、石黒ひでが「アンスコムの行為論」を書いている。飯田の「日本の分析哲学」も印象的。

 

[24]

テムズとともに――英国の二年間

徳仁親王

紀伊國屋書店、2023年

今上天皇がまだ若き皇太子だった1980年代中頃、オックスフォード大学のマートンコレッジで学んだときの回想録。面白い。私がオックスフォード滞在中に図書館で読んだときは絶版だったが、めでたく復刊されたそうだ。

 

[25]

考えるあなたのための倫理入門

メアリー・ウォーノック(著) 高屋景一(翻訳)

春秋社、2022年

ウォーノックの自伝(A Memoir: People and Places)はまだ翻訳がない。この平易な入門書は伝記的な話から始まっているので、拙著の内容を思い起こしながら読むと入っていきやすいかも。良書。

 

[26]

グローバル化時代の大学論2 イギリスの大学・ニッポンの大学――カレッジ、チュートリアル、エリート教育

苅谷剛彦

中央公論新社、2012年

オックスフォード大学の教育については、同大学で教員をしている著者によるこの本が詳しい。チュートリアルや教員の業務等も詳しく解説している。拙著を読んで日本の大学・哲学教育を考えたくなった真面目な人向け。

 

[27]

ニーチェ全集15 この人を見よ 自伝集

フリードリッヒ・ニーチェ(著) 川原栄峰(翻訳)

筑摩書房、1994年

「なぜ私はこんなに賢明なのか」「なぜ私はこんなに良い本を書くのか」等の見出しに度肝を抜かれる自伝。「私は人間ではない。私はダイナマイトだ」という名言も。その後、爆発はしなかったものの、発狂してしまった。

 

[28]

果てしなき探求――知的自伝〔上〕〔下〕

カール・R・ポパー(著) 森 博(翻訳)

岩波書店、2004年 ★品切・絶版

反証可能性や『開かれた社会とその敵』等で知られる哲学者の自伝。「誰が論理実証主義を殺したのか」という問いに「私がやった」と答えるなど、ニーチェに通じる過剰な自負心を感じる。ポパーの入門書としてお勧め。

 

[29]

明治の人物誌

星 新一

新潮社、1998年

星新一と言えばショートショートだが、実は評伝も面白い。野口英世やエジソンの偉人伝しか読んだことのない人はぜひ本書を手に取ってほしい。中村正直や後藤新平の話もよい。最相葉月の『星新一』という伝記も逸品。

 

[30]

二十歳のころⅠ――1937-1958

二十歳のころⅡ――1960-2001

立花隆・東京大学教養学部立花隆ゼミ

新潮社、2002年 ★品切・絶版

伝記ではないが、第一線で活躍中の人々が二十歳の頃に何をしていたかを東大の学生たちがインタビューした貴重な記録。立花隆亡きあと、ぜひどこかのゼミで続けてほしい。大学生には『立花隆の最終講義』もお勧め。

 

冊子版ブックリストの中身はこのような感じです。

 


児玉聡さんが書いたり翻訳した本

【選書と紹介 本人】


[1]

功利主義入門――はじめての倫理学

児玉 聡

筑摩書房、2012年

倫理学や政治哲学では、功利主義から出発し、ロールズがそれを乗り越え、さらにセンがロールズを乗り越えるという「正史」があるが、本書は功利主義に留まって倫理学を概説している。気楽に倫理学を学びたい人向け。

 

[2]

功利と直観――英米倫理思想史入門

児玉 聡

勁草書房、2010年

功利主義と義務論という二大倫理理論の対立がどのように始まり展開したのかという問題意識から書かれた英米倫理思想史。この対立にダーウィンやスペンサーらの進化論がどう影響したのかを解明する必要があり研究中。

 

[3]

進化倫理学入門

スコット・ジェイムズ(著) 児玉 聡(翻訳)

名古屋大学出版会、2018年

進化論関連の本は日本でも多々あるが、進化論と倫理学の関係について体系的に論じた本は少ない。本書では前半で人間の行動や心に関する進化論の研究が紹介され、後半で現代に至る進化倫理学の問題が論じられている。

 

[4]

マンガで学ぶ生命倫理――わたしたちに課せられた「いのち」の宿題

児玉 聡(著) なつたか(マンガ)

化学同人、2013年

生命倫理の入門書。初めてマンガ家と一緒に仕事をしたが、編集者の熱意も手伝って従来のマンガ解説本とは一線を画するものになった。おかげさまで好評だが、生命倫理に新たな展開もあるため、現在続編を鋭意執筆中。

 

[5]

実践・倫理学――現代の問題を考えるために

児玉 聡

勁草書房、2020年

比較的真面目な倫理学の入門書。死刑廃止論、安楽死の是非、喫煙規制の限界、ベジタリアニズム等の現代社会の諸問題を考えることを通じて、倫理学的思考が自然と身に付くはず。より体系的な『入門・倫理学』もお勧め。

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著者略歴

  1. 児玉 聡(こだま・さとし)

    1974年大阪府生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程研究指導認定退学。博士(文学)。東京大学大学院医学系研究科専任講師等を経て現在,京都大学大学院文学研究科教授。
    主な著書に『COVID-19の倫理学』(ナカニシヤ出版,2022年),『実践・倫理学』(勁草書房,2020年),『正義論』(共著,法律文化社,2019年),『入門・倫理学』(共編,勁草書房,2018年),『マンガで学ぶ生命倫理』(化学同人,2013年),『功利主義入門』(筑摩書房,2012年),『功利と直観』(勁草書房,2010年,日本倫理学会和辻賞受賞)など。

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