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〈エリア・スタディーズ〉200巻達成記念ページ

世界の食文化を知る②――ウガリ&えんどう豆のシチュー/タンザニア

 

熱々のウガリ

八塚春名

 サハラ以南アフリカの広い地域では、モロコシやトウジンビエといった雑穀や、トウモロコシ、キャッサバなどの穀物の粉を湯で練ったものが主食に食べられる。材料や呼び名は非常に多様であるが、作り方や出来上がった料理、さらには食べ方に至るまで、かなりの共通点がある。東アフリカのスワヒリ語圏ではそれを「ウガリ」と呼び、肉のシチューや葉菜の炒め物など、さまざまなおかずをつけて食べられる。タンザニアの場合、ウガリは何よりもよく食べられる、ポピュラーな主食である。

 ウガリは沸騰した湯に粉を入れて、木べらで練り上げる。家族の人数が多ければ、一度に大きなウガリを作らなければならず、農村部では薪がくべられた三石かまどに大鍋を設置して、大きな木べらで力強く練り上げる女性たちをよく見かける。直火のすぐ脇でおこなう力仕事。汗だくになりながらウガリをつくる姿も珍しくない。

ウガリは熱々が一番おいしい。熱々を提供できるように、人びとは練り上げた大きな塊を丸めて内側が冷めないようにしたり、断熱加工が施された容器に入れたりと工夫をするが、もっとも理想的なのは、鍋に直接手を伸ばして食べることだ。その熱々のウガリを右手で一口大にちぎり、丸め、おかずをつけて口へ運ぶ。慣れるまで、手の平が熱くて火傷をしそうになる。フィールドワークを始めた頃、熱くてウガリをちぎれずにいたわたしに、一緒に食べている誰かがいつも、代わりにちぎって渡してくれていた。

 農村部では残ったウガリを翌朝に食べることもある。冷めたウガリを直火に放り込むと、表面が少し焦げて香ばしくなり、これはこれでまたおいしい。カリっと香ばしくなった表面を食べ尽くしたら、また火の中へ放り込む。それを繰り返しながら甘い紅茶を飲み、農村の一日が始まっていく。

 ウガリの楽しみはもうひとつある。おこげだ。タンザニアの農村部でフィールドワークをしていたわたしは、「じょうずなウガリには、きれいなおこげができる」と教えられた。実際に居候先のおばあちゃんが作るウガリには、鍋の内側に、少し厚めのきつね色のおこげがついていた。焦がしてしまうと真っ黒になり食べられない。でもきつね色のおこげは、パリパリと香ばしく、穀物の風味もして、おいしい。そのパリパリのおこげを鍋から少しはがして、熱々のウガリと一緒に丸めておかずにつける、わたしがもっとも好きなウガリの食べ方だ。ただ、「ウガリがあるのにおこげに手をのばすのは行儀が悪い」と何度も注意をされたので、お客さんとして招かれた家では決してやってはいけない。

 近年、タンザニアでも都市部を中心に、ひとりずつ個別の皿にカットされたウガリが提供される機会が増えた。熱々のウガリも、小さくカットされると冷めやすい。皿によそわれると、鍋のおこげは一緒に食べられない。大勢でひとつの鍋や皿に手を伸ばして食べる共食が主流のアフリカにおいて、大きく丸い熱々のウガリは、本来もっとも共食に適する食べ物だったのではないだろうか。わたしにとって熱々のウガリを鍋から食べることは、単においしい料理を味わうだけでなく、人と一緒に食べる楽しみを味わうものでもあると感じている。

 

~*~*~材料~*~*~ 

 

◆シチュー

 

ピーナツ:50g

玉ねぎ:1/2個

わけぎ(なくても可):1/4束

えんどう豆(さやから出して):2カップ(150~200g)

トマトの水煮缶:1カップ

サラダ油:大さじ2

塩:適量

 

◆ウガリ

 

とうもろこし粉:1カップ

水:1.5~2カップ

 

~*~*~つくりかた~*~*~

 

◆シチュー

 

1 ピーナツをフライパンで乾煎りしてすり鉢に入れ、すりこぎで叩いてできるだけ細かく砕く。

2 えんどう豆はさやから出して鍋に入れ、かぶるくらいの水を加えて柔らかくなるまで煮る。煮汁を2カップ取っておく(フレッシュなえんどう豆がない季節は、冷凍グリーンピースでも代用できます)。

4 玉ねぎは薄切り、分葱があれば小口切りにする。鍋に油を熱し玉ねぎを炒め、こんがりとしたら分葱も加えて炒める。

5 玉ねぎがしんなりしたら、1の砕いたピーナツ粉を加え炒める。

6 ピーナツの香ばしい香りが立ってきたら、2でゆでた豆と、豆の煮汁を1.5カップ加え、煮る。

7 トマトの水煮、塩小さじ1弱を加え、弱火でコトコトとよく煮込む。焦げないように鍋底から混ぜ、水分が少なくなれば煮汁を足す。

8 塩で味を整え、豆が柔らかくトロっとしてきたら完成!

 

◆ウガリ

 

1 コーンフラワーは、粉ふるいでふるうか、ボウルに粉を入れて泡だて器でぐるぐる混ぜて、ダマをなくしておく。

2 鍋に湯を沸かし、沸騰する直前に少しだけ粉を入れかき混ぜる。

3 沸騰したら残りの粉を入れ、木べらでしっかりかき混ぜる。

4 鍋底から返しながら粉が残らないようにしばらくかき混ぜる。粉っぽさがなくなったら、蓋をして火を止め10分蒸らして完成!

(レシピ提供:NPO法人アフリック・アフリカ)

 

 

変わる町、変わらない味

近藤史

「Viatu vitatu, elfu moja(靴三足、1,000シリング). Viatu vitatu, elfu moja…」(ズンチャカ、ズンチャカ)

 2023年8月、COVID19の世界的パンデミックの収束を待って4年ぶりに訪れたタンザニア南部の町ンジョンベは、自粛や停滞の気配が色濃く残る日本とは対照的に、以前にも増して活気にあふれていた。Soko la Mkulima(農民市場)の隣に新築されたエレベーターつきのホテルに部屋をとり、ウェルカムドリンクで提供されたジンジャーティーを飲む私の耳に往来の喧騒が飛び込んでくる。食材の値段交渉をする人びとの声に重ねて、セカンドハンドの靴屋が拡声器で繰り返す口上は韻をふんでいて妙に耳に残る。ガラケー・スマホの修理から音楽データ販売まで手広く商うデジタルなんでも屋の店先では、大音量の音楽を流し、店員とその友人らしき若者たちが踊っている。そういえば、手狭になって郊外へ移設されたものの遠すぎると皆から不評だったバスターミナルも、今ではすっかり周辺の商業施設開発がすすみ、バスの乗客を送迎するバイクタクシーや三輪タクシーで賑わっていた。

 一息ついて散策に出かけると、めざましい発展を遂げた町並みのなかに、変わらない風景もみつけた。農民市場にところ狭しと並ぶ、とれたての野菜とよく乾燥された豆や穀類だ。ンジョンベ州に暮らす農耕民ベナの人びとは、雨の降らない乾季のあいだも湿潤な谷地を利用してさまざまな野菜を栽培する。6月から11月にかけて、地下水位が下がっていくのに従って谷地の辺縁部から中心部に向かって耕作場所を移動させつつ、まずは南瓜やえんどう豆を植え、それからアブラナ科の葉菜類、いんげん豆と栽培していく。8月末はちょうど未成熟のフレッシュなえんどう豆(グリーンピース)の旬で、その日も市場で1リットル容器に1杯あたり2,000~2,500シリングで売られていた(2023年8月末時点で1円≒17シリング)。前年10月頃に収穫された完熟の乾燥えんどう豆は1リットル4,000シリング程度だ。

 えんどう豆はその生育段階に応じて多彩な味を食卓へもたらす。若葉は、生育の妨げにならない程度に摘み取り、少量の玉ねぎと一緒に油で炒めてウガリのおかずにする。市場では8月初旬あたりから両手の指でつくった輪にいっぱいの一把500シリングで登場する。柔らかく甘みのある味は日本の豆苗とそっくりで、それもそのはず、豆苗はえんどう豆のスプラウトだ。豆は、シチューにしてウガリのおかずにするほか、トウモロコシの穀粒と煮込んでカンデと呼ばれる一皿料理をつくる。いずれもフレッシュな豆と乾燥豆のどちらでもつくられ、それぞれに風味が異なっていて美味しい。

 市場の店々を冷やかしてホテルへ戻る道すがら、露天商の女性からバギアと呼ばれるスナックを買った。乾燥えんどう豆を粉に挽いて水・塩と混ぜ、玉ねぎやトウガラシを加えて油で揚げたもので、小腹がすいたときのおやつや酒のおつまみとして人気が高い。味も製法も中東の豆料理ファラフェルと似ており、おそらくインド洋交易を通じてこの地に伝来したのだろう。COVID19などなかったかの如く活動的に暮らすタンザニアの人びとの熱気と町の変貌ぶりに圧倒されていた私の舌に、4年前と変わらない味が広がり、少しほっとした。

 

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