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『在野研究ビギナーズ』から考える 公式読書会 第6回

 

自分に合ったコミュニティを探すには?

荒木:今まで出た論点で皆さんが関心に思ったこと、もっと聞きたいこと、意見などなど、もしありましたら挙手してほしいんですけどもいかがでしょうか。

質問者:先ほど、プレ報告会とか進捗報告会の話が出てきたんですが、進捗報告をする場所がないことに悩んでいます。どう見つけていけばいいのか、お聞きしたいと思います。

酒井:この話に限らず、そういう都合のいい場は無いのがふつうでしょうね。基本的には自分でつくるしかないと思っておいたほうがよいです。作るやり方も、「小さめの研究会に行って、知り合いをつくって、」以外には、そんなにバラエティはないでしょうから、さしあたってはそれがお答えになるでしょう。クローズドな進捗報告の場に対するニーズは非常に広範囲にあるはずなので、それをテコに人を探せ、ということになるでしょうね。

星野:僕は、進捗報告をする場所はないですね。一人で計画を立て、調査しまとめるだけです。

 

インターネットと研究活動

荒木:今のことに関して、ちょっと付属的な、私のほうから質問なんですけども、たとえば独自に研究会を開くときに、現在だとやっぱりインターネットをどう活用するかっていうことは大きな鍵になってくるかなって思う一方で、なんでもかんでもネットで満たされるかっていうとおそらくそうじゃないのかなっていう直観があって、どういうところでインターネットを使って、どういうところでは絶対使ってはいけないのか、そういう区別がもし酒井さんにあるのならばちょと教えてほしいんですけども。

酒井:私の活動の基本はオフラインですが、そもそもオフラインの活動もインターネットがなければ成立しないので、両者の関係は複雑です。別言すると、オンラインとオフラインをそんなに強くは区別していないので、「ネットだけでできることは?」みたいな発想は持ったことがないですね。

工藤:すいません、逆質問になってしまいますが、荒木さんは成果物をインターネットで公表されて、そこでフィードバックが得られたというご経験を語っていらっしゃったと思います。それは、品質管理に資する感じなのでしょうか。司会役なのに恐縮ですが、ぜひ。

荒木:質の反対がインターネットでやるべきことで、試運転みたいなことはネットでどんどんやろうとは思ってますね。だから、こういうことを考えてみたけどどうなのみたいなことは積極的に書くようにする。ただ、それを一つの成果物として固めていくっていうときに、これは原稿の中にも書きましたが、やっぱリアルの契機といいますかそういったものが大事なってくる。私の場合だと紙ということですよね。自費出版で自分の本をまとめるというふうなことをやったのも、やっぱりインターネット上で書き散らしてしまうと、到達できない整理といいますか、知見の在り方があるだろうなっていうことがあった。そういう意味では、インターネットはある種の助走といいますか前段階で、そこからいかに固めていくかが私とインターネットの付き合い方かなという感じですね。

 

地方で研究コミュニティを立ち上げるには

質問者:私は、地方都市で生涯学習とか在野研究のコミュニティをもっとつくっていきたいと思っています。私自身が何かを研究したいのではなく、みんなが研究できるコミュニティをつくっていきたいです。それで、石井さんの書かれた章「地域おこしと人文学研究」の中で、市民の方ってそんなに登場してこなかったと思いました。たとえば、市民で研究会やるというのは、成立しうるんでしょうか。

石井雅巳:13章を担当した石井雅巳です。まず前提として、僕が居たのは、島根県鹿足郡津和野町というところで、人口もものすごく少ない町です。少ない反面、固まって住んでいるし、アイデンティティみたいなものがはっきりとしています。それは、歴史と文化です。西周や森鴎外を輩出したんだというところに住民は大きな誇りを持っているし、重要な観光資源にもなっている。だから、研究やコミュニティづくりを地域活性として実施できたところがあります。

つまり、うちの地域資源ってなんですかっていったら、その文化とか歴史でしょと。じゃあ今活かせてるんですかっていうと活かせてませんよねと。だって西周とか住民もほとんど読んだことないんだから。じゃあそれを読みやすくして、教育や観光に使えるようにすることって、地域活性の前段階として大事でしょ、だとしたらみんなが読みやすい入門書とか現代語訳を作る研究活動に、行政が力を貸すのも仕事としてありなんじゃないんですかっていうロジックです。私の活動では、行政側の人間とかお金を研究に使うことができたという背景が大きいかなと思ってます。そんな背景で、西周の入門書とか現代語訳を作りました。

ご質問にあるような、市民での研究というところですと、私の分野の場合、郷土史家の方々の活動ということになるだろうと思います。私も随分お世話になり、連携して研究を進めていました。専門家を招いた講演会を実施したり、勉強会を開いて住民に関心をもってもらったりといった活動です。

あと一つ目をつけたのは高校生です。大学もなく、少子高齢化が進む町では高校生のプレゼンスは非常に高くなっています。そこで、高校の授業に参加させてもらったり、歴史や思想に興味がある子に、放課後、勉強会っぽいものを開いたり。そういう高校生への働きかけとか交流みたいなものはやってました。それがどれだけ大きいコミュニティにできてるかというのは自信がないんですが、目の付け所としては今言ったところですね。

質問者:関連して、酒井さんにお尋ねしたいです。さっき、異分野交流は、能力と余裕がある人しか残らないみたいな話がありました。地方でコミュニティをつくるときに、最初からその水準に達している人たちを見つけて集めるって、結構難易度高いんじゃないかなと思っています。むしろ、研究に触れてこなかった人たちの底上げや支援をしたい。過去に、酒井さんがやったことがあれば、教えていただけたら。

酒井:分野や媒体に関わらず様々な作品を楽しむとか、ある課題に取り組むときにそれに関係しそうなものを分野にこだわらず読む、というのは誰でもやっていることでしょう。「能力と余裕がある人しか残らない」というのは研究者における「訓練によって獲得された無能力」に関わることであって、地域コミュニティの話には直接は関係ないだろうと思います。

地域での活動においても、少なくとも二つの相──(A) インフラとなる基礎的な活動と、(B) それを土台にして成立する派生的な活動──でプロジェクトを組み立てるとよいのではないか、とは思います。Aは定期的・恒常的に人が集まる仕組みのことで、その典型が読書会です。

他方、主催者側の目標設定も少なくとも二つの相──(a)直接的な目標と、それを下位目標として含む(b) より抽象的な目標──で用意したほうがよいでしょう。目標がないと活動は迷走しがちですが、具体的で明確すぎる目標は人を選んでしまうだけでなくAがたやすく手段化されてしまいがちです。どちらも避けて中道を歩むには、

・定期的な集まりの場(A)を設定したうえで、
・そこに実際に集まった人たちでできそうなこと(B)を、
・主催者の目標(b)と摺り合わせるかたちで考案する

という方向に進むと、実現性と持続性と意義を無理なく確保しやすいのではないでしょうか。

荒木:議論は尽きませんが、そろそろ時間を過ぎているので、以上で終わりにしたいと思います。皆さん、長時間にわたり、ありがとうございました。

 

[了]  

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