『在野研究ビギナーズ』から考える 公式読書会 第1回
2020年1月5日に開催された『在野研究ビギナーズ』公式読書会。執筆陣が、「読書時間を確保するコツ」から「大学院を出ないと在野研究はできないのか」問題まで、読者の疑問に答えて縦横無尽に語りました。本記事は、その内容を編集・再構成して掲載したものです。(構成:工藤郁子)
みんな一度は断った? 『在野研究ビギナーズ』執筆の舞台裏
荒木:まずは登壇者三名の自己紹介からはじめましょうか。
工藤:第2章を担当しました、工藤郁子です。昼はコンサルをしていて、夜は研究をしています。「在野研究」な本に寄稿してますが、PHP総研や東京大学未来ビジョン研究センターの肩書もあります。今年度は筑波大学で非常勤講師もやりました。荒木さんと一緒で、私も教育者になりたくなくて大学でのキャリアを選ばなかったのですが、諸事情あって引き受けざるを得ず……。
興味があるのは法学です。共著に『ロボット・AIと法』有斐閣(2018)や『AIと憲法』日本経済新聞出版(2018)などがあります。そして、私は「最後に決まった共著者」です。あとで酒井さんから紹介があると思うんですけど、この本を書くにあたって、執筆進捗報告互助会なるものが開かれていました。そこにうかうかと参加したら、荒木さんに「工藤さんも書いてみませんか」と誘われたんです。最初は断ったんですが、苦渋の決断で書くことになりました。
酒井:そうは見えなかった(笑)。
工藤:いやいやいや。私、何回か断りましたよね、荒木さん。
荒木:断りましたね、はい。
工藤:ほら、断った断った(笑)。荒木さんから誘われて渋ったのは、執筆が苦手で嫌いなのもあるんですが、それだけが理由じゃないです。なんか「在野」ってあんまり意味のない区別じゃないかと。少なくとも自分は共感できなかった。だから拒否しました。でも、荒木さんに「それでもいいから書いてください」と言われたので、なんか熱意にほだされたみたいな感じです。
星野:第9章を担当しました星野健一です。飯の種としては長年家庭教師をしており、色々なニーズに応えるため僕自身も勉強漬けの日々を送っています。一方で、法華仏教研究会という学術コミュニティに参加しています。本会はとても学際的で、発起人だけを見ましても思想史学や歴史学、社会学などを専門とする先生がたが名を連ねています。
僕は、本会が刊行している研究誌でここ10年ほど宗教学、仏教学関連の書評やコラムを中心に執筆を続けてきました。学術論文となると、僅かしか書いてないのですけれども、最近は近代以降の文人の仏教観や日蓮観の調査を進めておりまして、順次発表していく予定ではいます。担当章では、そうした研究生活のあらましと経緯について書かせていただきました。
初めに、「在野研究の片隅から」というタイトルで書かせていただいたんですけども、最初、荒木さんから執筆依頼を受けた際に、自分には立派な業績がないので、執筆者としてのインパクトが弱いんじゃないかと半ば断るつもりで言ったんですけれども……。
工藤:星野さんも断ってたんだ!
荒木:そうなんですよ。
星野:人材としてちょっと魅力に欠けるんじゃないかなと思って言ったんですけど、荒木さんから「在野研究の成果は論文に限定されないと考えています」というお答えをいただいて、とりあえず書いてみることにしたんです。
酒井:都内で会社員をしています。その傍らに、夜や休日に、ボランティアとして研究支援活動をやっています。私のWEBサイトに活動一覧ページがあるのですが、多少なりとも関わっている分野は哲学、法哲学、行政学・行政法学、政治学、社会政策論、社会学、歴史学……と様々です。特に最近は哲学が占める割合が大きくなってきていますが、私自身の中心的な関心領域は科学史にあります。この本では第11章を担当しました。
で、依頼を断ったエピソードですけども…。非常に根本的な部分で私はこの「在野研究」という言葉に乗れない──〈大学/在野〉という区別に乗れないし、しかも私自身は研究をしていない──ので書けません、と断りました。……ということはあったのですが、そこは荒木さんの懐の深いところで、「それでもいいから書け」と言われまして。ということで、「そもそも研究とは」みたいなことを書きました。また、執筆進捗報告互助会というのを参加者の有志(半分ぐらい)で開いて、本章中に紹介した支援活動を共著者の皆さんにも体験していただきましたね。
「在野研究(者)」という言葉の難点はいろいろありますが、ここでは一つだけ、この言葉で切れるものが少なすぎるという点を挙げておきます。たとえばこの言葉は、例えば実務家が多数参加している学問分野や企業研究者のことなどは視野に入れていません。なので、これがリアリティを持つのは主要には「研究というのは大学でやるものだ」と考えている一部の文学部出身者に対してだけであるように思われるのですね。にもかかわらず本書のような打ち出し方をすると、読者に「〜は在野研究者なのだろうか」という問いを惹き起こしてしまいがちで、これはそもそも切れるものが少ない概念を拡張使用したために成り立つものであり、したがって切れない包丁で素材を磨り潰すようなことになりかねない危険なものでもあるのではないかと少し心配しています。
荒木:本日は、3名の登壇者のほかに、酒井大輔さん、伊藤未明さん、石井雅巳さんも、会場にいらっしゃっています。あとで喋ってもらいましょう。