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SNSでのコミュニティは幸せを生むか:『コミュニティの幸福論』試し読み

桜井政成・立命館大学教授の著書『コミュニティの幸福論:助け合うことの社会学』(2020年9月30日発売)は、家族や地域、趣味・ボランティアのグループ、SNSやネットゲームといったあらゆる“コミュニティ"を取り上げて、人と人との関わり合いを問いなおす一冊です。

身近なギモンや俗説の真相究明に挑んだ学術的な研究は国内外にあり、本書の中で数多く紹介・解説しています。ここでは本書の第7章「インターネットとコミュニティ」の一部をご紹介します。


 

SNSでのコミュニティは幸せを生むか

インターネット上のサービス・コミュニティの中でも、登録された利用者同士が交流できるソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の普及はめざましいものがあります。SNSではアカウントと呼ばれる会員登録のような手続きを経てサービス利用を開始します。アカウントは原則実名で行なう必要があるものと、仮名でも構わないものがあります。

SNSの代表的なものをいくつかあげますと、SNSの草分け的な存在であり、実名登録が基本で、最初はアメリカの大学生同士のネットワークから始まった「Facebook」(フェイスブック。2004年サービス開始、日本では2008年から)。140文字というテキストの投稿制限がありながら、即興的な投稿が人気の「Twitter」(ツイッター。2006年サービス開始。日本では2008年から)。写真投稿がベースで、若い女性からブームが広がった「Instagram」(インスタグラム。2010年サービス開始。日本語版は2014年から)。メールに代わる気軽な交流ツールとして定着した、日本発のSNSである「LINE」(ライン。2011年サービス開始)、といったものがありますね。

このような多様なSNSのオンライン・コミュニティに、人は必ずしも1つだけ参加しているわけではありません。青山(2018)の成城大学の大学生154名を対象としたSNS利用調査では、まったくSNSを利用していないと回答したのは男性3名にとどまっていました。そして、1つのSNSのみ利用している学生は1割にも満たず、ほとんどの学生は2つ以上のSNSを利用していました。同じSNSで複数のアカウントをもっている人も多くみられました。友人関係で使用するアカウントや、趣味のアカウントなどを、それぞれ使い分けるのです。すぐに削除できるから気軽に、一時的に使用する適当なアカウントを作る(捨てアカと呼んだりします)、ということもあるようです。


しかし、こうしたアカウントの使い分けを取り上げて、やはりSNSでの人間関係は希薄なものだ、と結論づけるのは早計ではないかと思います。第5章でふれた、現代の人間関係は「コミュニティ解放」されたものであることを思い出してください。バーチャルではない、リアルな人間関係においても私たちは、すでに「使い分け」をしているのです。

小澤(2016)による東京と韓国ソウルとの中学・高校生1422人(それぞれの都市で711人ずつ)を調査した結果の分析では、日韓の中高生とも、一般的に友人関係の使い分けを重視する傾向にあることが明らかにされています。なおその傾向は日韓共通して男子より女子に顕著に現れたそうです。ただし、「オンライン上の友人がいる」ことは友人の使い分けに強く影響しており、インターネットの普及がその傾向を加速させた可能性はありそうです。

では、SNSでの他者との関わりは、幸福感や満足感にどのような影響を与えるのでしょうか。初期の研究では過度のSNSの閲覧が健康や幸福感を損ねるという可能性が強調されがちでした。しかし新しい研究では、SNSの使用は、実名登録が基本のFacebookを対象とした研究の場合、ある程度人生の満足度に正の関連があるとされています。

さらに、もともと生活満足度と自尊心のレベルが低い人の場合は、SNSの使用からより大きなメリットを得るとされています(Ellison, Steinfield, & Lampe 2007; Kim 2014)。それは人と人とのつながりが生まれることによって、社会的な「つながりの感情」が刺激されるためとされています。つまり、オフラインでは十分に得られていなかった人間関係を、オンライン上でつくることができ、それにより満足感を得られるというメリットがSNSにはあります。

また、Facebookの「友達」[1]の数が多いほど幸福感が増す、という研究がいくつかみられます(Kim & Lee 2011など)。しかし、アメリカとドイツで行なわれた研究結果では、利用者の性格、とくに外向性を統計的に考慮に入れると、「友達」の数と幸福度との関連性は消えてしまいました(Lönnqvist & Große Deters 2016)。つまり、単にもともと社交的だからFacebookの友達の数も多いし、そして幸福度も高いということのようです(こうした第3の要因がみせかけの関係性をつくっていた、という状況を疑似相関と呼ぶというのは、第1章で説明しました)。

 [1] Facebookで「友達」になると、限定的に公開された投稿も相互に利用者が確認できるようになります(必ずしもオフラインで「友達」である必要はありません)。

むしろ注目すべきは、これまでの研究から言えることは、SNSの利用の仕方によって、その人の幸福感や満足感に異なる影響が生まれている可能性があるということではないでしょうか。たとえばオランダの心理学者バーデンらによる、39の学術論文のレビュー(考察)の結果、SNSを受動的に使用すると、主観的幸福とのあいだには負の関連、つまり、幸福度を低くする関係がありました(Verduyn et al. 2017)。それに対して、前向きに使用することと主観的幸福とのあいだには正の関連がみられましたが、受動的な利用の影響の方がより確からしいとのことです。

なぜ受動的な使用が幸福度を損ねるのでしょうか。それは社会的な比較や羨望の念をひきおこすからのようです。SNSで友人の楽しげな、「リア充」的な投稿を目にすることによって、それに比べて自分は……と考えてしまうのですね。SNSでの社会的比較が生活の満足度を下げるという結果は、日本人(の大学生)を対象とした調査でも現れています(叶 2019)。

また、先にも引用したアメリカとドイツで行なわれた研究(Lönnqvist & Große Deters 2016)では、ネット上でのソーシャルサポートは、友人の数と関係していませんでした。別の研究では友達の数や強い絆よりも、SNSの利用頻度の方がソーシャルサポートに影響しているという結果もあります(Kim 2014)。言われてみれば当たり前なのですが、SNSを閲覧している(利用している)時間が長いほど、そこでサポートを受ける機会も高いということですね。このことは、知り合いが少ない人でも、SNSを積極的に使用することで恩恵を受ける可能性があり、困ったときでも比較的少ない労力で他の人々に働きかけ、サポートを動員できるようになることを示唆しているとされています。ただし、「意味のないことをしている」といった感覚を抱くような受動的な利用の場合は、長時間の利用はかえって自身の気分を損ねるのでよくないようです(Sagioglou & Greitemeyer 2014)。

この研究結果より、SNSを通じたソーシャルサポートにも利用の仕方が関係し、それによって異なってくる可能性がありそうです。たとえば別の研究では、アメリカの大学生391人を対象としたFacebook利用についての研究になりますが、正直な自己表現をすることによって、他者からのソーシャルサポートに影響し、幸福感を高める可能性がみられました(Kim & Lee 2011)。SNS上で見栄を張らないことが、何かと助けてもらえるカギになるのかもしれません。

ここまでの話をいったんまとめますと、受動的な利用によって他人と比較しないことや、正直な自己開示をすることが、SNSを上手に利用するコツということになりそうです(図参照)。 

しかし、それができれば苦労はしない、という感想の人もいるのではないでしょうか。少なくとも私はそうです。人と比較をしないことは大事だと頭ではわかります。「幸せな人生を生きるコツ」みたいなものを読んだときもそうなのですが、それができないから、苦しいのだと思ってしまいます。……(以下略。第7章の目次は下記のとおりです)

 

 第7章 インターネットとコミュニティ
 1 オンライン・コミュニティの出現 ―若者はデジタル・ネイティブなのか―
 2 SNSでのコミュニティは幸せを生むか ★公開部分
 3 オンラインゲームの功罪
 4 オンラインゲームで性別を入れ替えてプレイすることの意味
 5 ネットコミュニティの積極的意義は見出せるか? ―オンラインとオフラインの新しい関係―
 コラム:ボードゲームとコミュニティ

 

【参考文献】

青山征彦(2018)「大学生におけるSNS利用の実態:使い分けを中心に」『成城大学社会イノベーション研究』13(1): 1-17.

Ellison, N. B., Steinfield, C., & Lampe, C.(2007)The Benefits of Facebook “Friends:” Social Capital and College Students’ Use of Online Social Network Sites. Journal of Computer-Mediated Communication, 12(4): 1143-1168.

Kim, H.(2014)Enacted social support on social media and subjective well-being. International Journal of Communication, 21(8): 2201-2221.

Kim, J., & Lee, J. E. R.(2011)The facebook paths to happiness: Effects of the number of Facebook friends and self-presentation on subjective well-being. Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 14(6): 359-364.

Lönnqvist, J. E., & Große Deters, F.(2016)Facebook friends, subjective well-being, social support, and personality. Computers in Human Behavior, 55: 113-120.

小澤昌之(2016)「青少年の友人関係の使い分け志向と学校生活:日韓中高生を対象とした意識調査をもとに」『人文』15: 115-131.

Sagioglou, C., & Greitemeyer, T.(2014)Facebook’s emotional consequences: Why Facebook causes a decrease in mood and why people still use it. Computers in Human Behavior, 35: 359‒363.

Verduyn, P., Ybarra, O., Résibois, M., Jonides, J., & Kross, E.(2017)Do Social Network Sites Enhance or Undermine Subjective Well-Being? A Critical Review. Social Issues and Policy Review, 11(1): 274-302.

叶少瑜(2019)「大学生のTwitter使用,社会的比較と友人関係満足度との関係」『社会情報学』8(2): 111-124.

 


コミュニティの幸福論:助け合うことの社会学

桜井 政成(著)

四六判/縦組/並製/352ページ/本体2,200円+税/ISBN 978-4-7503-5089-9 C0036(2020年9月30日発売)

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著者略歴

  1. 桜井 政成(さくらい・まさなり)

    立命館大学政策科学部教授
    1975年長野県生まれ。立命館大学大学院政策科学研究科博士後期課程修了。
    博士(政策科学)。専門社会調査士。
    立命館大学ボランティアセンター主事,同助教授,立命館大学政策科学部准教授等を経て,2015年より現職。2013年から2014年までトロント大学客員教授。
    専門は社会学。研究対象はNPO,社会的企業,ボランティア活動,地域福祉,コミュニティ等。
    〔主要著書〕
    『「趣味に生きる」の文化論:シリアスレジャーから考える』(分担執筆,ナカニシヤ出版,2021年)
    『コミュニティの幸福論:助け合うことの社会学』(明石書店,2020年)
    Globalizing Welfare: An Evolving Asian-european Dialogue(分担執筆,Edward Elgar,2019年)
    『市民社会論:理論と実証の最前線』(分担執筆,法律文化社,2017年)
    『北欧福祉国家は持続可能か:多元性と政策協調のゆくえ』(共訳,ミネルヴァ書房,2017年)
    『東日本大震災とNPO・ボランティア』(編著,ミネルヴァ書房,2013年)
    『ソーシャル・キャピタル:社会構造と行為の理論』(共訳,ミネルヴァ書房,2008年)
    『ボランティアマネジメント』(ミネルヴァ書房,2007年)

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