実践編:理科
柳原浩紀
最後に理科の勉強法について書こう。といってもここまでの教科の勉強法と重なる部分も多い。たとえば社会で書いた「重要用語を用語そのものだけ覚えるのではなく、ざっくりと説明できるようにしよう」とか、数学で書いた「定理や公式は結果を覚えるだけでなく、それが当たり前になるところまで(教科書や参考書に載っている範囲で)自分で導き出せるようにしよう」とかは理科についても同じだ。こうした勉強法は理科においてもそれぞれとてもよく機能する。
まず、教科書や参考書を読むことから始めよう。重要な用語の説明をざっくりとできるように読み進め、重要な公式はなぜそうなるのか、それが何を意味しているのかをしっかりと説明できるようにしていこう。ここにおいても社会と同じように言葉だけを覚えていても仕方がない。むしろ重要な用語を説明できることを目指すとよい。
理科にも公式が多い科目と少ない科目があるが、大切なのはそれらの公式をただ覚えるだけではなく、意味を説明できるようにしていくことだ。そうした努力には最初は時間がかかるだろう。しかし、その方が結局は深く長く残っていき、たとえ忘れても意味から自分で考えられるようになるのは数学と同じことだ。たとえば等加速度運動での変位を「V0t+1/2at²」と覚えるだけではなく、v-tグラフの面積として認識する、というように。そしてなぜ変位がv-tグラフの面積で表されるかと言えば、「速さ×時間=距離」とつなげられるとよい(もちろん厳密には積分を使うわけだが、これもまずはざっくりでよい)。そのようにじっくりと公式の意味をたどることで忘れにくくなるだけでなく、忘れても再現できるようになってくる。逆に意味もわからずに「とりあえず公式だけ覚えれば問題は解ける」を繰り返したとしても、定期試験ならともかく入試には全く通用しなくなる。もちろん、公式は覚えなくてはならないものだ。しかし、覚えるときに「どうしてそうなるのか?」という内側の論理を鍛えていくことは、忘れにくくし、また思い出しやすくしてくれる。
また、今の例でもグラフが出てきたが、理科において教科書や参考書を読むときに特に大切なのはグラフの読み取りだ。これも教科書や参考書にあるグラフを丁寧に追って意味を理解しようとしたり、自分でもグラフを書く習慣をつけることがとても大切だ。本文だけを追って理解したつもりでいても、グラフの読み取りをおろそかにしてしまっていると、結局理解しにくくなる。使いこなすことができないだけでなく、グラフを与えられての読み取りや自分でグラフを書く問題にも対応できない。そして、グラフを理解するのには、本文を理解すること以上にとても時間のかかるものだ。しかし、それは避けて通れない必要な時間である。嫌がらずにじっくりと時間をかけて、ぶらぶらしながら味わっていくことが大切だ。
このように教科書や参考書をぶらぶらしながら、重要な言葉の意味やグラフのポイント、公式を説明できるようにしていこう。この「読む」というプロセスに理科の場合はどうしても時間がかかる。覚えること、読み取ること、公式の意味を考えることなどに時間がかかるからだ。しかし、それはかけるべき時間だから、しっかりとかけたほうが結局はプラスになる。そのように念入りにぶらぶらした後に、問題を解いていくことになる。
問題を解いていく際に理科と他の教科との最も大きな違いは、数値で計算をすることが多い教科であるということだ。もちろん科目によって違ったり、大学入試か高校入試かによっても違ったりするわけだが、総じて理科において数値計算をする機会は多い。物理こそ数値で計算させる入試問題は少ないが、化学はもちろんのこと、生物・地学と数値で計算する機会はそれなりに多い。
だからこそ、一見当たり前ではあるが、この数値での計算のために算数の理解や計算力が必要になる。理科の内容はわかっているのにテストで計算間違いをしたり制限時間に間に合わない、という場合には、この計算力の部分が足を引っ張ってしまっている可能性がある。算数の計算練習、特に分数や小数のかけ算、比や割合といった分野は理科においてはとてもよく使うからこそ、それらの分野の復習や計算練習をしていくことが大切だ。これらの単元がしっかりと使いこなせるレベルにある、という中高生は実は想像以上に少ない。自分に必要ならば小学生の算数にまで戻って復習をすることができるのも自学自習の強みである。そしてそれがまた、結局は最短ルートだ。理科の勉強とともに、自分にとって苦手な算数の分野の復習や計算練習をしていくことが大切だ。
算数や計算力にそれほど問題がないのに理科が苦手であれば、問題文を理解して式を立てる部分において、理解度がまだ低い可能性がある。そのような場合には問題を繰り返し解く前に、そもそもそうした問題で使われる用語の定義があやふやになっていないかどうか、公式をただ覚えているだけではなく、意味がしっかりと説明できるかどうかから確認をしていく必要がある。そして、それらを自分の中で当たり前にしていったあとに、問題文から式を立てられるか、という計算ぬきのトレーニングだけをひたすら積んでいくのもよい。
また、グラフの読み取りが苦手なら、そもそもグラフの読み取りだけを練習するのも大切だ。教科書や参考書に載っているグラフのポイントを言葉で説明できるかどうかを練習していく、というのがいいだろう。そもそもグラフの読み取り自体に慣れていないのなら、それだけを練習するための教材、というのも最近はある。それらを使って読み取る練習をしていくとよい。
つまり、理科の問題を解くときには、問題文(用語であったりグラフであったり公式であったり)を理解するプロセスと計算のプロセスをくっきりと分けることが必要だ。リービッヒの最小律のように、あなたにとって苦手な部分こそがあなたのその教科の実力を決めることになる。どの部分でつまずいているかを明確にし、そこに集中してトレーニングを進めていくことが大切だ。
言い換えれば、問題を解くのはあくまで自分が複数のプロセスの中のどこでつまずくのかを発見するためのツールでしかない。自分がどのプロセスでつまずくのかを見つけたら、問題演習を一旦やめて、自分が苦手なそのプロセスを集中的に練習することの方が大切だ。計算があやふやなせいで検算ばかり繰り返したり、定義や公式があやふやなせいでいちいちそれらを確認したり、というように、自分にとって苦手なプロセスで毎回引っ掛かり、そこに時間をたくさん費やしてしまうのであれば、結局問題を解いている時間をいくら取っても、あなたの実力を伸ばすことにはあまりつながらなくなってしまうのだ。そのようなときは問題演習を一旦止め、苦手なプロセスの克服にしっかりと時間をかけよう。
そして苦手なプロセスを克服した後には、反復練習が必要だ。ここにおいて問題を繰り返し解くことが効果的になってくる。その反復練習をするためには、問題集の問題はできるだけ絞って問題数の少ないものを選ぶのが良い。大量の問題では反復する余裕など当然持てなくなるからだ。学校で配られる教材は一般的に問題数が多すぎることが多い。その中でも例題だけ解くとか基本問題だけ解く、というように問題数を絞ってまずはそれを各単元について繰り返していくのがよい。初めから難しい問題まで解ける必要はない。まずはどの分野も基本的な問題が解けるように、問題数を絞ったうえでそれぞれの分野を網羅していくことが大切だ。
理科はテストの時、特に時間が足りなくなる教科である。大学入試では2科目セット(「物理と化学」「生物と化学」のように)で解く大学もあるように、制限時間がきついだけではなく、時間配分も難しい。だからこそ反復練習を通じて典型的な問題をどれだけスムーズに手早く解けるようにするか、ということが大切になってくる。そのようにして時間の余裕を作り、見慣れないややこしい問題を考える時間を作っていく、という練習が必要になってくる。
どの科目でも最終段階で時間を計って問題演習をすることは必要だが、特に理科においてはその問題演習と時間配分の練習の重要性が高い。そのために時間を計って練習するとよいだろう。
まとめよう。理科の勉強においてもまた、まずはぶらぶらしながら、重要な語句や公式、グラフを説明できるようにじっくり時間をかけていこう。問題を解くときにはその復習の中で自分に今一番苦手なプロセスが何かを常に分析することが大切だ。苦手なプロセスが見つかったら、そこを重点的に練習することを最優先にしよう。その際に算数まであやしかったら、それもしっかり復習したほうがいい。問題を解くのは、あくまで自分がどのプロセスが弱いかを探すためであり、そのためには問題数を絞り込んで簡単な問題からやっていくことが大切だ。そのようにしていけば、様々な要素を持つ理科の勉強も、自分に必要なものを見つけることで、手応えを感じられるようになるはずだ。