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テレワークがもたらすもの ─呪縛からの解放─

第17回 ノマド的テレワークのすすめ?

◆タニタの挑戦
 体重計で有名なタニタが、正社員から業務委託契約のフリーワーカーへの切り替えを推進している(https://r.nikkei.com/stories/topic_DF_TH_20033001)。「偽装自営業者」ではないかと疑う声もあったようだが、あくまで社員の希望に応じて行うということなので、ブラックな要素はない。むしろ安定しているが拘束性の強い働き方をしてきた正社員に、自由と刺激を与えるのが、新たな人材活用の方法として望ましいという経営判断がなされたのだろう。
 社員からみると、フリーになることのメリットは、文字どおり自由になれることだ。「自営業主」という言葉からわかるように、一国一城の主(あるじ)となれる。時間も自分が好きなように使える。副業の際に企業の許可を得るといったことも必要なくなる。しかし、自由の代償として、安定性はなくなる。正社員からフリーへの転身はよほどの自信と覚悟がなければできない(これは本連載でも、たびたび出てくるテーマだ)。
 経営者としては、企業の中に取り込んで指揮命令により働かせる必要があれば社員として雇用するし、指揮命令しなくてもしっかり働いてくれるので、その成果だけを受け取ればよいと判断すれば、業務委託契約を結ぶことになる。雇用というのは、働くほうも大変だが、働かせるほうも大変だ。成果がどうあろうが、固定的な賃金を支払わなければならず、その負担は重い(成果主義賃金を導入して、業績不振のリスクを労働者に転嫁する方法もあるが、それにも限界がある)。社会保険料などの負担もある。だから現在の社員のなかでも、業務委託契約で働けるだけの能力と意欲のある人材であれば、フリーへの転身を勧めるのは合理的な経営判断だ。
 現在、社員をテレワークでうまく活用できている企業は、リモート環境で直接的な指揮命令ができないなかでも、社員にインセンティブを与え、きっちり成果を出させることができる企業だ。そのような企業であれば、その社員をフリーとして働かせることにも、それほど無理がなかろう。テレワークと自営的な働き方・働かせ方は深い相関性がある。

◆「ノマド家」の挑戦
 実力のある正社員の、フリーワーカーへの転身は、サクセスストーリーにつながりやすい。ただ、最近では、入社後の比較的早い段階で正社員の地位を捨て、フリーワーカーに転身していく者もいる。
 フリーワーカー達が集まって共同生活をしながら、協力して業務を遂行していく「ノマド家」というものがある(https://nomadoya.com/)。「ノマド」は、遊牧民とか放浪者といった意味で、ここでは、どこの企業にも所属しない者といったニュアンスだ。こうした働き方に惹かれる若者は、昔から一定数はいた。しかし今後は、これこそが標準的な働き方となるかもしれない。
 厚生労働大臣の懇談会が2016年に発表した『働き方の未来2035~一人ひとりが輝くために~』という報告書には、次のような記述がある(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000133449.pdf)。
 「2035年の企業は、極端にいえば、ミッションや目的が明確なプロジェクトの塊となり、多くの人は、プロジェクト期間内はその企業に所属するが、プロジェクトが終了するとともに、別の企業に所属するという形で、人が事業内容の変化に合わせて、柔軟に企業の内外を移動する形になっていく。その結果、企業組織の内と外との垣根は曖昧になり、企業組織が人を抱え込む『正社員』のようなスタイルは変化を迫られる。」
 「このように企業がプロジェクト型の組織になるにつれて、働く側も、自分の希望とニーズに応じて、自分が働くプロジェクトを選択することになる。その結果、企業側は、自分のプロジェクトに最適な人を引き付けるべく努力をする必要性が生じる。
 また、働き方の選択が自由になることで、働く時間をすべて一つのプロジェクトに使う必要はなくなる。複数のプロジェクトに時間を割り振るということも当然出てくる。もちろん、一つの会社、一つのプロジェクトに従事する場合もあるだろうが、複数の会社の複数のプロジェクトに同時に従事するというケースも多く出てくるだろう。」
 「ノマド家」では、発注者の依頼ごとに各分野のプロが集まり、互いのスキルを結集しプロダクトを制作する。上記の報告書では企業の未来像としてプロジェクト型組織が挙げられていたが、現実はもっと早く進行しており、企業という形をとらずに、プロジェクト単位の「チーム」で仕事が行われているのだ。彼ら、彼女らの仕事のスタイルも、自営型テレワークだ。自営型テレワーカーが、「ノマド家」という「共助」のスタイルをつくってプロジェクトをこなしているのだ。近未来の働き方の先取りと言えるだろう。

◆BPOのインパクト
 BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)とは、業務プロセスの外部委託という意味だ。企業が、コア業務に経営資源を集中するために、残りの業務を外部化するというのがBPOの典型例だ。従来は、関連する業務はできるだけ企業の組織内にとりこんで統制下においたほうが効率的に事業を遂行できると考えられていた。しかし、ICT(情報通信技術)の発達により、組織に取り込まなくても効率的な統制がとれるようになった。機動的に事業展開ができるようにするためにも、組織はスリム化したほうがよい。
 BPOにより、垂直的に統合されていた企業のバリューチェーンは分散され、複数の企業(あるいは個人)が水平的にネットワークを形成していくようになる。そのネットワークのなかに入ることができれば、フリーワーカーも、企業が外部委託した業務を受注していける。法務や経理のようなバックオフィス(間接部門)はAI(人工知能)を活用した自動化も可能だが、安くアウソトーシングできれば、それを選択する企業も多いだろう。広報部門なども、例えばホームページやロゴの作成など芸術的センスが必要なものは、外部のプロフェッショナルに発注したほうがよいだろう。そのほかにも、企業内の通常業務を洗い出していくと、社員にやらせなくてよいものが意外と多いことがわかるだろう。様々な分野でスキルを磨いている「ノマド」たちに可能性があるのは、そのためだ。
 自営型テレワーカーも、企業のネットワークのなかに組み込まれることになれば、比較的安定的に仕事を受注できる。これは自営型テレワークにとっての最大の不安定要因を取り除くことになる。

◆支配あるところに責任あり
 BPOの究極の姿は、すべての業務をアウトソーシングし、たんに仲介役に徹するというビジネスモデルだ。車の所有者(サービスの提供者)と利用者(購入者)をつなぐという、ライドシェアのウーバーテクノロジーズのビジネスモデルも、このタイプのものだ。タクシー会社がドライバーを雇用するのと違い、ウーバーはドライバーを雇用していない。このような何も生産しないデジタル・プラットフォームが収益を上げることができるのは、他人に商品を生産させて、それを買う人を連れてくることによって、その取引の場代(仲介料)をとっているからだ。
 これは、前回にみたアマゾンなどと同様、確かに革新的なビジネスモデルなのかもしれない。ただ、同じように人間の運送サービスを活用したビジネスでありながら、一方では労働法の世界の制限を受けて、それだけ利益も抑えられるのに対して、他方は労働法の世界の制限を受けずに利益を伸ばすことができる。これをある種の不正競争ではないかと疑念を抱く人がいても不思議ではない。実際、フランスの労働法典では、デジタル・プラットフォームに対して、一定の「使用者」的な責任(労災保険や職業教育に対する金銭的な援助、団体行動の権利の承認)が課されている。このほかにも、海外ではウーバー型のライドシェアジネスにおけるドライバーの労働者性を認める司法判断が広がってきている。これはデジタル・プラットフォームが仲介をするだけでなく、何らかの強い支配力をドライバーに及ぼしているという認識の広がりを反映している(カリフォルニア州では、ウーバーのドライバーらの労働者性を認めやすくする法律も制定されている)。「支配あるところに責任あり」という法原則は、人々の正義感にも合致する。

◆理想の自営型テレワーク?
 ただ、こうした場を提供して仲介料で利益を上げるというビジネスモデルは、いつまでも続くとは思えない。リアル空間での労務提供は、機械による自動化が進む可能性が高い。例えば、自動運転が広がると、ヒトやモノを運送するのは人間ではなくなる。そこにまで直ちに行かないとしても、商品やサービスの提供者と利用者とのマッチングは、AIが自動的かつ的確に行うことはすでに可能だ。ある事業プロジェクトに必要な人材も、AIが瞬時に最適な人材を提案してくれて、マッチングはそこで終了だ(その人材がオファーを断れば、また次の最適人材の提案があり、それが繰り返されるだけだ)。こうなると、AIこそが真の支配者といえそうだ。「支配あるところに責任あり」によれば、責任を負うのはAIとなる。これは、AIが人間の「意思決定」を代替するようになったとき、AIの責任をどう考えるかという、哲学者たちがいま頭を悩ませている重要問題の一つにつながる。
 というようなAI時代の行く末に関するやや重苦しい展望をしているときに、「ノマド家」のような話を聞くと、どこかほっとさせてくれるものがある。そこには、テレワークをしていても、シェアハウスで共同生活して、仕事はそこでチームを結成して行うというアナログ的な要素がある。個人がバラバラに住んでいても、インターネットでつながって、チームでプロジェクトを遂行することは、現在の技術では難しくないが、そうでないやり方をあえて選択しているところが面白い。電子メールで送れるのに、手紙を書いて郵送しているような感じだ。デジタルで効率化できるところは、それを進めながらも、どこかにアナログ的な要素を残す。これが自営型テレワークの一つの理想型であるような気もする。

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著者略歴

  1. 大内伸哉(おおうち・しんや)

    1963年神戸市生まれ。東京大学法学部卒、同大学院法学政治学研究科博士課程修了。神戸大学大学院法学研究科教授。博士(法学)。労働法を専攻。著書に『君は雇用社会を生き延びられるか』(明石書店、2011年)ほか多数。SHINYA OUCHI Web Site:http://www2.kobe-u.ac.jp/~souchi/

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