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テレワークがもたらすもの ─呪縛からの解放─

第14回 仲間は大切

◆消えていく単純業務
 前回の最後にも述べたように、フリーワーカーとしてやっていくためには、たえず自分のスキルをアップデートしていかなければならない。そのために必要なのが、政府の「前向き」の支援策だった。もっとも、この支援策の内容を具体的に考えていくのは、そう簡単ではない。フリーワーカーと一口に言っても、そのタイプは実に多様だからだ。
 例えば、クラウドソーシングで、高いスキルを要しない単純業務を受注して働く人(クラウドワーカー)は自営型テレワークの代表形態だが、その実態は、仕事を仲介するプラットフォーム企業に雇用されているのと変わらない場合もあろう。またウーバーイーツの配達員のように、リアル空間での肉体労働をしている場合には、他人の指示に従って働き、仕事中のケガも起こりやすい点で普通の雇用労働者と近い面がある。これらのタイプのフリーワーカーについては、どうしたらその仕事に成功するかという「前向き」の支援策よりも、失敗したときのセーフティネットのほうに目が向きがちとなる。
 もっとも、単純労務提供型の仕事は、今後、それほど長く残るとは思えない。例えば、こうした仕事の代表例である「アノテーション」(タグ付け)の作業(AIに学習させる「教師(学習用)データ」の作成に必要な基礎作業)は、AIの「転移学習」の発展によって大きく減少していくことが予想される(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53456700X11C19A2000000/)。それだけでなく、単純労務それ自体が、AIやロボットで代替されていくだろう。人間にやらせるほうが低コストという状況であれば別だが、本来、そういう仕事こそ機械が担当すべきものだ。コロナ禍で、ウーバーイーツの配達員は、エッセンシャル・ワーカーとしての誇りをもって働いているかもしれないが、それがどうしても人間がやるべき仕事かと問われると疑問符がつく。ウーバーイーツの配達員の「労働組合」の要求が受け入れられて人件費が上がれば(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57920550Q0A410C2916M00/)、企業側はドローンや自動運転車などを活用した機械化・省人化の開発に向けて大きく舵を切るだろう。
 いずれにせよ、これからのデジタル経済社会では、単純労務に従事し、雇用労働者と類似の働き方をするフリーワーカーは減っていくのだ。その影響は、ネガティブとポジティブの両面がある。ネガティブな影響は、高いスキルが不要の仕事が減ると、低スキルの人の雇用機会がなくなっていくことだ。ポジティブな影響は、人間がほんとうに人間らしい仕事に専念できることだ。古代のギリシャやローマにおいて奴隷が担っていた仕事を、自由人も行うようになったのが近代社会だ。しかし、デジタル技術の発達により、かつての奴隷の役割を機械が担えるようになる。奴隷は反人道的で根絶すべきものだが(しかし残念ながら世界を見渡せば現代でも残っている)、機械にやらせるのなら問題はなかろう。こうみると、デジタル化のポジティブな面に着目した「前向き」の支援策こそ必要だとわかる。

◆社会貢献と創造性
 デジタル経済社会では、企業は、AIやロボットにはない人間ならではの創造性を発揮できる人材を求めるようになる(本連載の第11回)。そこでいう創造性の意味は、必ずしも明確なものではないが、私たちの社会がどのようにして成り立っているかを考えていくと手がかりもみえてくる。
 私たちが、血縁で構成される家族や親族の範囲を超えて、大きな共同体社会をつくってきたのは、そのほうが生きていくのに都合がよかったからだ。社会には、いろんな能力をもつ人がいて、それぞれが得意とする分野がある。手先が器用な人、物知りな人、他人を楽しませるのが得意な人、リーダーシップをとれる人、細やかな神経をもって気配りができる人、交渉術に長けている人、腕力がある人など様々だ。そのようななかで、他人がもたない自分らしさを発揮することが創造性の本質だ。社会は、個人がそれぞれの得意分野(それが職業と呼ばれる)で創造性を発揮して互いに貢献するという分業によって成り立っている。労働とは、その具体的な営みを指すものなのだ。

◆シェアリングエコノミー
 ICT(情報通信技術)の発達は、社会のどこにどのようなニーズのある人がいて、どこにそのニーズを充足させる人がいるかを、つなぎやすくなった。つなぎ役となるプラットフォームビジネスも発達してきた。近年話題となっているシェアリングエコノミーでは、個人のもつ遊休資産が、それを必要とする他人との間でシェアされる(レンタルされる)が、それが広がってきたのも情報を仲介するプラットフォームビジネスのおかげだ。シェアされる遊休資産としては、自分の所有する不動産(民泊ビジネス)、自家用車(ライドシェアビジネス)が代表的だが、労働力(肉体労働、知識労働)もある。
 自分の空いている時間に自分の労働力を提供するのは、遊休資産となっている自分の労働力を他人とシェアすることと同じだ。副業には、こうしたシェアリングの面がある。このほかにも、例えば、急に上の子供が熱を出して病院に行かなければならないので、下の子供の面倒をみてほしいという人のために、3時間だけベビーシッターをする、あるいは、急に社員が出勤できなくなった店のために、客の多い夕方の2時間だけ応援のアルバイトとして働く、というのも労働力のシェアリングだ。
 私たちが、日ごろ生活していくうえで、他人の助けを必要とすることはたくさんあるが、ICTを使うと、そうしたニーズにきめ細やかに対応したマッチングが可能となる。(単発で行う)ギグワークは、不安定さが問題視されることがあるが、ICTを駆使してなされる柔軟な働き方でもあるのだ。これだけで生活をしていくとなると大変だが、社会貢献をしているという意味では、これも立派な労働だ。
 とはいえ、ロボット技術の発達は、こうした肉体的な労働力のシェアリングを、徐々に不要とするだろう。ベビーシッターもアルバイトもロボットで代替できる時代が来るからだ。

◆知識労働のシェアリング
 今後成長が期待されるのが、知識労働のシェアリングだ。例えば、私たちが何か知りたいときに、プラットフォーム企業をとおして、その知識をもっている人を紹介してもらい、その人から知識の提供を受けることができる。例えば料理のつくり方やヨガのやり方といった、これまで教室に行って教わっていたことが、簡単にオンラインで学べるようになっている。知識の本質が情報である以上、情報通信技術の発達により、人々に伝達しやすくなるのは当然のことだ。
 ただ情報は一度インターネットに公開されてしまうと新規性は失われ商品価値はなくなる。実は私たちはすでにかなり高度な情報を共有している。いまや百科事典がなくても、誰でも無償で簡単にWikipediaから情報を入手できる。学術専門誌に掲載されるような専門性の高い論文でも、閲覧は可能だ。法律の条文も、六法全書を購入しなくても、政府のWebサイトに行けば誰でも知ることができる。インターネット上には、もちろんもっと日常的な情報もある。料理のレシピ、鳩の追い払い方から、ワインオープナーがないときでもワインを空けられる方法などまで、数え切れないほどたくさんの役立つ情報が無料で手に入る。情報を提供して生計を立てるためには、こうした誰もがアクセスできる情報に上乗せできるような情報を提供できなければならない。

◆たかがネット情報、されどネット情報
 知識労働に従事するうえでは、インターネットを使って情報を入手することが不可欠だ。これは現在どのような情報が人々にすでに共有されているかを知るためにも必要だ。もちろんインターネット上の情報が真実である保証はない。例えば、私の情報もWikipediaに載っているが、私は全く関知しておらず、ほとんどみたこともないので、内容の真実性は全く保証されていない。インターネット上の情報とは、その程度のものだ。だからといって、インターネットから情報を得てはダメだとは言えない。そんなことを言っていたら、知的生産活動はできなくなる。Wikipediaにフェイク情報が含まれているとしても、その利用を止めてしまうのではなく、その危険性をふまえたうえで使うようにすればよいのだ。
 これからの教育では、知識を頭に詰め込ませるのではなく、外部にある情報をいかにして的確に収集できるかに重点が置かれるべきだろう(もちろん最低限必要な教養的な知識は頭に詰め込ませる必要はある)。この点では、良い人脈をもつことも重要だ。かつての人気テレビ番組「クイズ$ミリオネア」では、解答者に「ライフライン」として電話で家族や知人(テレフォン・ブレーン)に助けを借りるオプションがあった(そのテレフォン・ブレーンは、パソコンで問題に関する情報の検索をすることができた)。良い情報網をもつことは、フェイク情報に振り回されないことと同様、生きていくうえで重要なことだ(これは、別に現代に限った話ではないが)。

◆「つながる」を求めて
 自営型テレワークをする者は、自らの力で情報を入手してスキルを磨くという自助が基本だ。政府の「前向き」の支援策も、このことを前提としたものだ。政府は、ICT、AI、ロボットなどのデジタル技術の発達をふまえて、数年後にどういう社会になるかを的確に予測して、そこで必要となるスキルがどういうものとなるかを分析し、そのための情報を提供して、国民の自助をサポートしなければならない。
 こうした自助・公助と並んで、重要なのが共助だ。前述の人脈もその一つだ。出版社の編集者が独立してフリーワーカーとしてやっていくときには、同じような立場にある人たちで集まったほうが役立つ情報を交換できるだろう。労働組合の自営版のようなものだが、雇用労働者の労働組合が団体交渉を行ったり、ストライキを行ったりすることをとおして、その団結と連帯を高めてきたのに対して、自営版労働組合は、インターネットのもつ「つながる」機能を活用した情報共有が中心となるかもしれない。それは、孤立感や疎外感をもちがちな自営型のテレワーカーに、精神的な帰属場所を与えることにもなる。コロナ禍で分断されても仲間と連帯できるのは、ICTを使って働くテレワークの大きな強みだ。

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著者略歴

  1. 大内伸哉(おおうち・しんや)

    1963年神戸市生まれ。東京大学法学部卒、同大学院法学政治学研究科博士課程修了。神戸大学大学院法学研究科教授。博士(法学)。労働法を専攻。著書に『君は雇用社会を生き延びられるか』(明石書店、2011年)ほか多数。SHINYA OUCHI Web Site:http://www2.kobe-u.ac.jp/~souchi/

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