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テレワークがもたらすもの ─呪縛からの解放─

第11回 会社員は消えていく

◆中途半端はいけない
 本連載で、ここまでは雇用型テレワークの話題を採り上げてきた。会社員にはこれまであまりなじみがなかったテレワークが、新型コロナ問題で、突然時代の主役に躍り出た。「三密」を避けるために、そして政府からの推奨もあって、企業はあまり乗り気がしなくても、テレワークを導入せざるを得なくなった。そういうことだから、できるだけ早く、元の勤務態勢に戻したいと思っている企業も多いことだろう。しかしウイルスの感染力は、緊急事態宣言の解除やGo Toキャンペーンなど政府が先走りするのをあざ笑うかのように、一向に衰えそうになく、むしろ第2波の予兆さえある。テレワークを解消しても、すぐにまた元に戻す羽目になりかねない。テレワークはあくまでプランBで、プランAは通常勤務という姿勢でいると、どちらのプランも中途半端になって、コロナ後の本格的な活動再開の流れに出遅れるおそれもある。
 従業員もテレワークが「ニューノーマル」になると予測(覚悟?)しておくべきだ。本連載で何度も述べているように、私たちは、テレワークがデジタルトランスフォーメーション(DX)の大きな流れのなかにいるという時代認識をもつことが必要なのだ。

◆棚卸しが進むとどうなるか
 企業は今後、テレワークではどうしてもやれないものを取り分けて、それ以外はテレワークにするということにしていくだろう。こうした業務の「棚卸し」は、一部の企業では、すでにAI(人工知能)やロボットによって代替できる業務とそうでない業務の選別という形で着手されている。こうして、企業内のデジタル化は進行していくのだ。
 その棚卸しの作業では、人間がこれまでやっていた業務が明確にされていかなければならない。とくにホワイトカラーの業務は、従来、本人に任せられている部分が多かったため、その可視化が必要となる。可視化によって、AIやロボットに任せることができる業務を析出しやすくなり、結果、人間に任せるべき業務も明確化され、それがジョブ型の雇用管理につながる(本連載の第4回も参照)。
 問題は、その人間に任せるべき業務やジョブ(職務)は、いま在籍する従業員に託す必要があるとはかぎらないことだ。AIやロボットにできないような業務の典型は、知的創造性のある業務だ。例えば、私たちの生活にとって必要な情報を伝えるジャーナリストの仕事は、とても重要だが、ちまたの情報を集めて、整理する程度にとどまっていれば、AIにだって十分できる。むしろジャーナリストのニュースソースとなる情報が、インターネットから収集されるものなら、AIのほうがはるかに網羅的に収集して正確に分析できるだろう。人間の分析は余計なものなので、AIを使って人間のバイアスをできるだけ取り除いた客観性の高いニュースを提供しようとする企業もあるくらいだ(https://knowherenews.com/)。こうした企業であれば、報道事業であっても、必要なのはジャーナリストではなく、情報関連スキルをもつ人材となる。
 情報は足で稼ぐのが取材の基本、という記者魂は、もちろん大切だ。ウェブ情報にはないリアル情報を見つけ出せるのは、人間ならではとも言えそうだ。ただ、これに立ちはだかるのがIoT(Internet of Things)だ。世界中のあらゆる場所の出来事が、センサーによってデジタル情報として取得され、インターネットを通じて収集される。人間が動かなくても、機械が自動的に情報を集めてくれるのだ。こういう技術があるから、自動運転も可能となる。周りの情報を入手しながらAIが正しい運転操作を判断できるからだ。そして、その自動運転車自体が、移動の過程で情報を収集し続ける。こうして集まる膨大なビッグデータの分析は、もはや人間の手に負えず、AIに頼るしかない。記者魂がどれだけ強くても、AIには勝てそうにない。

◆創造性の大切さ
 もっとも、たんに生の情報を伝えるだけであればAIに任せればよいが、メディアの仕事は、それだけではない。むしろ個人の思想や価値観に基づいて加工して創造された(その意味で、偏った)情報こそ必要だという意見もある。例えば、私がいまここで書いている原稿も、その基礎となる情報は、インターネットや書物から入手するものだ(いまは前者の割合がどんどん高まっている)。そうしたものをたんにちょっと加工して提供するだけであれば、何も価値はない。価値の源泉は、基礎となる情報に、どれだけの創造性を加味して、「私の」発する情報として提供できるかだ。創造性がないものなら、それは別に私が書かなくてもよいことになる。誰も私に依頼しなくなるだろう。
 もちろん、創造性といっても、特許をとれる発明のようなハイレベルのものが必ずしも求められるわけではない。他人が気づかないことに気づき、やらないことをやるというのが、創造性の原点だ。どこかの自治体が、ゆるキャラをマスコットにして成功すれば、右にならえでやるなんていうのは、創造性とは正反対だ。隣の自治体がゆるキャラをやっているのなら、うちはまったく違った方法で地域おこしをするくらいの気概が、創造性には必要なのだ。参考にはするが、絶対に模倣だと指摘されるようなことはしない。これこそが創造性マインドだ。

◆創造的な人材はいずこに
 こうしたマインドは、企業経営にはとくに重要なはずだ。日本の経営者は、雇用の削減にかかわるようなことは、よほどのことがないかぎり口にしない。だから、AIやRPA(Robotic Process Automation)を導入するといっても、業務の効率化や改善のためだとしか言わない。しかし、業務の効率化や改善は、やがて業務の省人化につながる。AIが人間の雇用を奪うことは、長い目でみれば不可避だ。多くのデスクワークはコンピュータが担当し、肉体労働もロボットがやってくれる。人間には、コンピュータではできない仕事をやる道しか残されていない。それが創造性を要する仕事だ。
 だから企業が欲しいのは、創造的なアイデアを提供してくれる人材だ。常識的な人間では困る。確かに、常識は私たちが安定した社会生活をしていくうえでは必要だ。先人の知恵(情報)を受け継ぐことは、とても大切なことだ。ただ社会が変わっていくときには、常識にとらわれずに、新たな知恵を生み出していくことが必要だ。企業の指示に従い忠実に業務を遂行してくれてきた人材は、これまでは重宝されたが、今後はお荷物になりかねない。企業は、いまいる経営者や従業員が持っていないような情報を提供してくれる人材を集めなければ、他の企業との競争に生き残ることはできない。そうした人材は、どうしても企業の外に求めざるを得なくなる。

◆政府は頼りになるか
 ヤフーが、先日、新規サービスの企画立案などの業務に従事するハイスキルの人材を、業務委託契約を結んで受け入れることを発表した。そこでの働き方は原則としてテレワークとされている(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61540520V10C20A7EA2000/)。募集対象は、他社に在籍する人材にも及んでいる。つまり、本業として働いてくれなくてもよいということだ。まさに外部人材の活用だ。ヤフーが求めているのは、高度な情報だ。そうした情報の提供は、ICT(情報通信技術)を使って提供できるので、テレワークでよいのだ。会議が必要なときはオンラインでやればよい。
 こうした試みは、現時点ではまだ、副業人材の受入れという報道のされ方だ。ハイスキルの人材は、どこかの企業ですでに雇用されている会社員であることが多いからだろう。しかし、今後、こうした人材の需要が増え、その報酬も上がってくると、どの企業にも所属しないフリーランスが、ハイスキル人材の中核となる可能性がある。
 彼ら・彼女らは、自宅やサテライトオフィスで、いろんな企業と業務委託契約を締結しながら、テレワークをするだろう。どれだけ仕事を受託するかは、自分で決めるだろう。これは会社員のように指揮命令されないからこそできることだ。ワーク・ライフ・バランスの実現もしやすい。もちろん、経済的な面では、月例賃金という固定的な給与の支払いがある会社員と違い、不安定となるのは避けられない。ただ、不安定さはチャンスと表裏一体だ。自分の実力次第で大きく稼げる可能性があるのは自営だからこそだ。時間や場所の自己決定権を享受して、自分の能力で勝負する働き方をとるか、それとも企業に隷属して安定的な給与を選ぶか。それは個人の生き方にかかわることだから、他人がとやかく言うことではないかもしれない。
 ただ、苦しい通勤を続け、企業に滅私奉公しても、その企業がいったいどれだけ自分に報い続けてくれるか確信がもてない時代だ。名だたる大企業だって10年後には存在していない可能性は十分にある。企業に頼れないとなったとき、頼れるのは誰だろうか。まずは自分だ。しかし、こういうときこそ、政府が助けになってくれなければ困る。でも、政府は頼りになるだろうか。政府は、企業から離れて独立してやっていこうとした人たちを、いったいどのような政策でサポートしてくれるだろうか。非雇用(自営)型テレワークが今後どれだけ広がるかは、この点にかかっている。

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著者略歴

  1. 大内伸哉(おおうち・しんや)

    1963年神戸市生まれ。東京大学法学部卒、同大学院法学政治学研究科博士課程修了。神戸大学大学院法学研究科教授。博士(法学)。労働法を専攻。著書に『君は雇用社会を生き延びられるか』(明石書店、2011年)ほか多数。SHINYA OUCHI Web Site:http://www2.kobe-u.ac.jp/~souchi/

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