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きた道アメリカ、オモテウラ

アラバマ・フリーダム・トレイル(1):迫害と抵抗の足跡を訪ねてバーミンガムへ

“ボミンガム”へようこそ
 今年のキング牧師記念日の連休、ついに私たちはアラバマを訪れることにした。私たち家族のアメリカ本土をめぐる旅もこれで47州目だ。アラバマといえば、ディープ・サウス(アメリカ深南部)での人種隔離やアフリカ系アメリカ人弾圧の象徴的な場所で、アメリカの歴史を語る上では外せない州である。
 私たちは、まず州最大の街バーミンガムに飛行機で入り、ダウンタウンにある公民権運動ミュージアムに立ち寄った。入り口に行ってみると、アメリカ国立公園局のマークがあり、記念スタンプが押せるようだ。同じブロックにはもう1軒キング牧師たち公民権運動の活動家たちが泊まり、この街での抗議運動の拠点としていたというモーテルがあるのだが、ミュージアムと合わせて新たに国立公園となったようだ。国立公園となった日付を見るとオバマ政権最後の時期で、現在はリニューアル・プロジェクトが進行中だ。

 中に入ると、まずは小さなシアターがあり、バーミンガムの歴史を知る映像が始まった。この街は南北戦争後に誕生、工業で栄えた地だと導入があった後、人種隔離の歴史が紹介される。終わるとスクリーンが上がり、展示室へと進める仕組みだ。
 入るとまずは人種隔離の様子がわかる展示がされている。

 しばらく順路を進むとその先に“ボミンガム(Bombingham)”と題されたパネル展示がある。この街“バーミンガム(Birmingham)”と“爆破事件(Bombing)”を合わせたバーミンガムのおぞましいニックネームだ。40年代から60年代にかけて、この街では正義を求めて声をあげれば、白人至上主義たちに命を脅かされ、実際に50件近くの未解決爆破事件が起こったという。
 その横には、クー・クラックス・クラン(K K K:白人至上主義団体)の衣装が展示されていた。5歳の娘は、既に年少の時からアメリカの幼稚園でキング牧師記念日に人種隔離については学んできている。ここまで子どもでもなじめそうな立体やインタラクティブな展示などにだけ反応しながら、概略は理解していた様子の娘だが、奇妙な様子を感じ取ったのか神妙な面持ちで「これ、誰?」と尋ねる。少し答えに苦心しながら、「これは、お肌の白くない人が好きじゃない人たちなんだよ」と答える。娘はしばらく考えて
「私の肌は白?」
  とさらに尋ねる。
「白ではないね」
「……この人たちまだいるの?」
「……少しね」
 娘はすっかりそれに怯えてしまった。確かにそうだろう。生まれ持った肌の色で好かれたり、好かれなかったり、それだけでも恐ろしいことだ。私は、そこを見えないように抱っこして通過するべきだったか、あるいはもう少しなんとか伝える言葉がなかったかと後悔した。
 すっかり娘が怯えたその展示の奥には、あるアフリカ系アメリカ人家庭の朝のやりとりが音声で紹介されていた。娘と同年代だろう少年が、人種隔離への抗議に出かけていったおじさんについて母親と話をする場面だ。展示を見ただけで怯える娘の様子を考えれば、実際に憎悪の対象としてみられ、迫害されていたこの少年の恐怖たるやどれほどのものだったろうと胸が痛い。
 その後も娘は怯え続けたので、娘は出口付近で遊ばせておくことにし、私と連れ合いは交代で展示を見ることにした。

迫害と抵抗の足跡
 その後、展示は明日訪れる予定のアラバマ州モンゴメリーでのバス・ボイコットがまずある。その後、リトル・ロック高校事件など公民権運動の重要な出来事が展示されたスペースへと続く。アーカンソー州のリトル・ロック高校事件は白人と黒人の融合教育の方針を決定したリトル・ロック中央高校に対し、州知事が州兵を動員、融合教育に反対する地元白人たちも加わり、選ばれた9名のアフリカ系学生の登校を阻止するという事件が起こったものだ。
 さらに全米各地で起こった学生たちの「座り込み運動」についての展示もある。「白人専用」の食堂のカウンターに、「黒人」の学生たちが座るという非暴力の抵抗運動だ。以前、通っている語学学校の先生からこの座り込み運動に参加した時のことを聞いたことがある。彼女はカリフォルニアの黒人用の大学にいたが、ノースカロライナ州のグリーンズ・ボロで学生がこの運動を始めるや、続いて自分たちもこの運動に参加したという。彼女は逮捕され、程なく釈放されたが、その後祖母は口を聞いてくれなくなったという。彼女は「交換学生」第一期生として黒人用の大学に通っていた白人だったのだ。この頃、公民権運動に参加する白人は稀だったという。
 その後、ここアラバマ州でのセルマからモンゴメリーへ投票の権利を求めて歩いた歴史的行進や、20万人が参加しキング牧師が“I have a dream”と演説したワシントン大行進などの展示が続く。こうした歴史は世界に報道され、写真が多く残っている

ソウル・フードの名店を訪ねて
 ミュージアムを出て、楽しみにしていたグリーン・エイカーズ・カフェに向かった。途中、ミュージアムの道を挟んで目の前の広場は人種隔離と迫害の激しさと抵抗を表現したパネルや像・オブジェがある。

犬を連れた警察に暴行されるプロテスターの像
子どもたちの抗議運動について説明したパネル

 広場を抜けると程なく、目的地に到着する。公民権運動の活動家らもよく訪れたという、1958年創業のソウル・フードの名店だ。

 中に入ると、右手にはアレサ・フランクリンやB. B.キングなどがラインナップされた古いジュークボックスがある。その上には、オバマ大統領の当選だろうか、就任だろうか、額に入れられた新聞記事が飾られている。

 ミュージアムでアフリカ系アメリカ人迫害の歴史を見た後で、オバマ大統領誕生を思うと、それがどれほど多くの人が命をかけて歩んできた道の上に実現した悲願であったかとその重みが改めて感じられる。
 連れ合いがカウンターでこの店の名物ウィングとフライド・(グリーン)トマトのセット、フライド・オクラを注文する。ウィングは手羽先を揚げたソウル・フードの代表的メニューで、かつて奴隷主は胸肉などを食べ、食べにくい手羽先などは奴隷に回ってきたことから始まったものだという。アフリカ系アメリカ人のソウル・フードは、こうした苦境の中から、もともと持っていたアメリカの食文化と日々の工夫の積み重ねで出来上がってきた食文化だそうだ。
 このチキン・ウィングにはいくつか味付けがあり選べるそうで、店員が味をお勧めしてくれる。聞くと大人には美味しそうだが、娘にはちょっと辛そうだ。私も横から娘を指差しながら、「それ辛くない? この子も食べられるかしら?」と尋ねるが、彼女の一押しはやはりこの味だ。少々押し切られる形でお勧めの味を試すことにした。
 カフェといっても立ち食いカウンターがあるだけなので、テイクアウトにする。食事を手渡されるのを待つ間もひっきりなしに客がやってくる。
 外は相変わらず雨が降っているので、車で食べることにした。実際、食べてみると美味しいのだけれど、やはりかかっているソースは小さな子どもには少々辛すぎて、娘はソースのかかっていない部分と付け合わせの食パンを食べることになった。

賑わう南部料理の名店へ
 午後は、娘の楽しい時間ということで、バーミンガム美術館の子どもコーナーで2時間ほど過ごし、その後、おやつを食べにダウンタウンのフードコートを訪れた。昼ご飯が少々物足りなかった娘は、アイスクリームに大喜びだ。フードコートの一角にはお土産店があるので、覗いてみたが、空港からダウンタウンに移動する間に見かけた古い工場跡をモチーフにしたTシャツなどが売られている。他の古い工業都市と同じように、車窓から見えるこの街は、廃れた風景だけれど、かつての繁栄がこの街の誇りのようだ。この店内だけを見ると、この街で多くのアフリカ系アメリカ人が迫害され命を落としたことや、この街が公民権運動の拠点であったことなどなかったかのようだ。
 ホテルにチェックインし、しばし休憩をとった後、夕飯にホテル付近の南部料理の人気店を訪れた。チャールストン同様、南部にはフランス料理などの影響を受けた美味しいアメリカ料理の名店がたくさんあるようだ。昼に揚げ物を食べている私たちは、前菜からハムなどの盛り合わせやフォアグラなど肉料理を2品、メイン料理は地元野菜“Farm to Table”のサラダというベジタリアンメニューを注文して3人でシェアすることにした。
 物価の高いワシントンD. C.より価格はリーズナブルだが、高級な雰囲気だ。早めの時間に予約して一番奥の席に通された私たちが食事をとる間に、店内は気づけば満席となっていた。見渡すと私たち以外、客は全て白人だ。サーブをする接客係は多くがアフリカ系アメリカ人で、料理はとても美味しく野菜中心で胃も落ち着いたが、店内の光景はひどく奇妙に感じられた。
 ホテルに戻って子どもを寝かせると、連れ合いは私が勧めた映画“Selma(邦題:グローリー ――明日への行進――)”を観始めた。明日訪ねるセルマで起こった抗議運動を題材にしたキング牧師の伝記的映画だ。

 私は、それを横目に観ながら、明日に備えて眠りについた。 

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著者略歴

  1. 鈴木 晶子

    NPO法人パノラマ理事、セプテンバー・ハウスMAJコアメンバー(米メリーランド州登録NPO)。臨床心理士。大学院在学中よりひきこもり支援に関わり、若年無業者支援、生活困窮者支援などの現場を経験。生活に困難を抱える女性、若者、子どもの支援を中心に活動している。現在、在アメリカ合衆国。著書に『シングル女性の貧困――非正規職女性の仕事・暮らしと社会的支援』(共編著、明石書店、2017年)など。

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