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テレワークがもたらすもの ─呪縛からの解放─

第2回 テレワークに注目するのはなぜか?

◆災害に強いテレワーク
 テレワークは、2011年3月11日に起きた東日本大震災のときにも、大きく取り上げられた。地震や津波などにより、オフィスや工場などが使用不能になったときに、事業活動を継続できたのは、テレワークを活用している企業だった。事業の遂行場所を分散できたからだ。このことにより、テレワークが、「事業継続計画」(BCP:Business Continuity Plan)に効果的であることを、多くの人が知ることになった。
 しかし「喉元過ぎれば熱さを忘れる」だ。企業の東京集中の傾向は旧態依然で、経験が活かされていない。政府も同じだ。必ず来ると予想されている首都直下地震への備えは十分にみえない。巨大地震が来れば、政府機能は麻痺する。天災は忘れた頃にやってくる。先行して進められるはずだった文化庁や消費者庁の地方移転も、なかなか進んでいない。東京になければどうしても困る省庁を除き、できるだけ速やかに地方に分散させるべきだ。ネットでつなげば重要な会議もオンラインでできる。「議員レク」だって、オンラインで可能なはずだ(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46057650T10C19A6PP8000/)。これに対応できない議員など見放すくらいの気構えでなければ、改革は進まないだろう。そもそも国会や霞ヶ関の役人が変わらなければ、国民にテレワークを要請しても説得力がない。隗より始めよだ。

◆アナログ時代には戻れない
 テレワークにとって、警戒すべきはコンピュータウイルスだが、現実社会のウイルスには無類の強さを発揮する。新型コロナウイルスの影響で、経済活動の大半が麻痺しても、テレワークをしている人は仕事を継続できている。他人と接触してはならないという状況が、仕事に影響しないからだ。医師や教師の仕事のように、これまで対面・接触型でのサービスが主だった分野でも、国民に不可欠なサービスを継続しなければならない、という強い声に押されて、オンライン化が広がった(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO58013150U0A410C2TJ2000/)。この意味でも、テレワークは、BCPに貢献できる。
 ただこれだけだと、オンライン化は、急場しのぎの暫定策のようだが、実はそうではない。私たちはすでに、高度なデジタル技術に囲まれたIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の環境のなかにいる。少しその気になれば、オンラインで可能なことが、私たちの周りには溢れている。
 総務省の2018年の情報通信白書には、次のような記述がある(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd102200.html)。
 「現在は、……『ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)』が進みつつある時代にあるといえる。この変化は段階を経て社会に浸透し、大きな影響を及ぼすこととなる。まず、インフラ、制度、組織、生産方法など従来の社会・経済システムに、AI、IoTなどのICTが導入される。次に、社会・経済システムはそれらICTを活用できるように変革される。さらに、ICTの能力を最大限に引き出すことのできる新たな社会・経済システムが誕生することになろう」
 新型コロナウイルスの到来は、こうしたデジタルトランスフォーメーション(DX)の進行真っ只中で起こっていることなのだ。しかも新型コロナ問題は、たとえいったん収束しても、第2波、第3波が来ると言われている。もうアナログ時代には戻れない。本格的なオンライン対応が必要ということだ。その中核にあるのが、テレワークだ。

◆移動のハンディを乗り越える
 テレワークは、災害のような有事に強さを発揮するだけではない。平時でも、テレワークの価値は高い。これまでのテレワークの推進論者は、まさにその点に着目していた。
 テレワーク(とくに在宅勤務型)の特徴は、なんと言っても、通勤をしなくてよいことにある。テレワークは、様々な理由で移動が難しい人の仕事の機会を広げてくれる。
 例えば、通勤が難しい障がい者にとって、テレワークは必要不可欠だ。「障害者の雇用の促進等に関する法律」は、事業主が「障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない」と定めている(36条の3。募集・採用時については36条の2)。そこでいう「必要な措置」を講じることを「合理的配慮」というが、テレワークは「合理的配慮」の基軸となる措置だ。
 身体能力が衰えてくる高齢者が働くためにもテレワークは役立つ。来年4月施行の改正「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が示しているように(その概要は、https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000626609.pdf)、70歳までの就労が標準化しつつある。これは、人生100年時代への対応として、高齢者の能力発揮の機会を増やす意味もあるが、より重要な理由は年金財政への不安だ。年金をもらえる年齢はどんどん上がっていくだろう。そう遠くない将来、その年齢は75歳まで引き上げられる可能性もある。テレワークができなければ大変だろう(自動運転がどこまで早く普及するかにもかかっているが)。
 政府は「病気の治療と仕事の両立」にも力を入れ、「働き方改革実行計画」(2017年3月28日)の政策課題の一つとしてきた(https://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20170328/05.pdf)が、そこでもテレワークは頼みの綱だ。例えば、国民の相当数が罹患すると言われるがんは、長期の療養を要することが多いが、そのときでも、医師と相談しながら病室でテレワークができれば、仕事を継続できることになる。

◆育児と仕事の両立
 身体的な理由がない場合でも、テレワークで救われることがある。その代表例が、育児の負担を抱えている人だ。もちろん、テレワークができても、育児と仕事の両立は簡単ではない。現在も、新型コロナウイルスで、休園や休校により家に子がいる状況で在宅勤務をせざるを得なくなった人は、様々な困難に直面しているはずだ。子供が仕事中に邪魔をしに来て、支障が出てくることもあるだろう(簡単な仕事なら、子供に小遣いを与えて手伝ってもらうなんてこともあるかもしれないが)。そもそも自宅に仕事部屋などなく、テレワーク仕様になっていないことから不便を感じる人も多いだろう。
 それでもテレワークができるだけまし、という見方もできる。例えば、次のようなケースを考えてみてほしい。幼い子がいるが、生活のために共働きをしなければならない。でも、近くに面倒をみてくれる両親や親戚はおらず、保育園を探すのも大変だ。こういう状況になれば、テレワークができる会社で働ければ、どんなによいだろうと思うはずだ。
 出産をすれば仕事を辞めるということも、テレワークができれば回避できる。もちろん法律上は、子が1歳(条件によっては2歳)以下までは、育児休業をとることができるし、小学校入学前の子を養育する者にも、様々なサポートがある(「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」)。しかし、休めば給料は減ってしまう。ノーワーク・ノーペイだ(ただし、育児休業については、雇用保険から育児休業給付金がもらえて最初の180日は67%、その後は50%が補填されるが)。テレワークであれば、給料を減らさずに仕事を継続できる。

◆介護離職ゼロをめざして
 同じようなことは介護に関しても起こりうる。とくに介護が必要な状況は、育児と違って突然降りかかる。仕事をバリバリしていた世代の労働者が、親が突然倒れたことにより、介護のために離職しなければならないというのが典型的ケースだ。これが「介護離職」だ。介護休業を取得することもできるが、通算93日に限られているので、介護が長期化すれば辞職せざるを得なくなってしまう。
 中小企業で幹部従業員が突然離職するといったことになると、経営を左右しかねない。テレワークができれば、そうした従業員が辞めなくてもすむかもしれない。それは本人にとっても、また企業にとっても意味がある。
 政府も、「一億総活躍プラン」(2016年6月2日閣議決定)を発表したときに、「介護離職ゼロ」を政策の中心に掲げていた(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ichiokusoukatsuyaku/pdf/gaiyou1.pdf)。高齢化の進行で介護が必要な人が増えていき、一方で少子化により労働力人口が減少しつつあるなか、介護と仕事の両立は、きわめて重要な政策課題なのだ。ここでもテレワークへの期待は大きい。

◆実は通勤しているテレワーク
 ここまでテレワークのもつ、通勤しないで働けることのメリットに焦点をあててきた。もっとも、通勤しないで在宅で仕事をするということだけであれば、テレワークのメリットは半分もない。例えば通勤できない従業員に、自宅でできそうな仕事をさせているだけのテレワークでは、企業にとっても、その意義をそれほど感じないだろう。
 テレワークの本当の価値は、ICT(情報通信技術)を使うことによって、実際に通勤しなくても、生産性が下がらない働き方ができてこそ発揮されるのだ。アメリカでは、テレワークのことを、テレコミューティング(telecommuting)とも呼ぶ。この言葉は、直訳すれば、遠隔通勤だ。テレワークの本質は、バーチャルな通勤をして、出勤したのと同じように働けることにあるのだ。それを支えるのが、ICTなどのデジタル技術だ。

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著者略歴

  1. 大内伸哉(おおうち・しんや)

    1963年神戸市生まれ。東京大学法学部卒、同大学院法学政治学研究科博士課程修了。神戸大学大学院法学研究科教授。博士(法学)。労働法を専攻。著書に『君は雇用社会を生き延びられるか』(明石書店、2011年)ほか多数。SHINYA OUCHI Web Site:http://www2.kobe-u.ac.jp/~souchi/

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