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きた道アメリカ、オモテウラ

さよならコロンブス・デー――バケーションランド・メイン州が向き合う先住民の歴史

静かなる祝日「コロンブス・デー」から「先住民の日」へ
 アメリカの祝日の中で、最も盛り上がらない祝日といえば10月第2月曜日にある「コロンブス・デー」だ。セールで有名な感謝祭でなくとも、祝日となれば「○○デー・セール」と銘打った広告が多く入ってくるのだが、ことコロンブス・デーについては、何もない。
 コロンブスといえば「新大陸」を「発見」したと日本でも歴史の授業で習った人物だが、先住民の人たちから見れば「新」大陸でも「発見」でもなく、侵略の歴史の幕開けである。そのため、近年は連邦政府が定めた祝日であるこの日を祝日としていない州や郡もある。逆に「先住民の日」として祝う州も増えており、パーティーの席でも話題に上る近年の潮流だ。今年2019年には新たに少なくとも5つの州が「先住民の日」としてこの日を祝ったという。その一つがアメリカ北東の果てに位置するメイン州である。
 昨年、私たちはこのコロンブス・デーにメイン州に旅をしたのだが、この州にとっては最後のコロンブス・デーとなったわけだ。メイン州に旅の目的地を定めたのは、この時期に紅葉が綺麗だと聞いたからだったが、結果として「先住民の日」の始まりにふさわしい旅になった。

全米最初の朝日が昇るバケーションランド
 朝一番の飛行機でポートランド空港からメイン州に入ると、まずウニ工場に立ち寄った。ラティーノたちが、陽気なラテン音楽に合わせて手際よく作業をしているこの工場で、日本人社長と話しながら、ウニと松茸を購入した。さらに、ランチも海産物が美味しいこの街で評判の寿司屋に入る。大都市の寿司屋よりも美味しく、値段も手頃で満足だ。

 そこから色づき始めた紅葉風景を眺めながら、レンタカーで走ること240キロ、3時間半。マウント・デザート島へかかる橋を渡り、アケイディア国立公園のあたりについた。メイン州はニューヨークやボストンからの気軽なバケーションランドとして知られるが、近いだけでなく、海と山、リゾートの町でのホテルやグルメなど休日の全てが楽しめることが魅力のようだ。夕方近くに辿りついた私たちも、早速サンセット・ヨット・ツアーに乗り込んだ。海から西の山に陽が沈んでいくのが見える。

 その足でこの島を代表する町バー・ハーバーの有名キューバ料理屋で夕食を食べ、ホテルにチェックインした。朝が早かった疲れが出たのか、家族全員早々に寝てしまった。
 翌朝早く、私一人だけ起き出して、朝日が見えないかベランダに出てみた。メイン州は全米で最初に朝日の昇る州だ。しかし、残念ながら曇りの上、私たちの部屋は少し北向きすぎたようで、ベランダの端に朝日が昇ってくるのが少し見えた程度だった。
 この日は朝から1日アケイディア国立公園を含めたこのマウント・デザート島を回ることにしていた。簡単に朝食を済ませ、早速国立公園のビジターセンターで地図を調達した。娘は、子ども向け教育プログラム「ジュニア・レンジャー」のワークブックも手に入れた。課題をやりきれば、ご褒美のバッジがもらえる。地図を見ると、ぐるりと公園内を一周しようとすると、国立公園として保護されているエリアを出たり入ったりしながら進むことになりそうだ。娘のワーク・ブックにも公園外にあるAbbe Museumに行ってくるなどの課題があり、町と一体化した珍しい公園運営になっているようだ。
 私たちは、まず東の海岸を南下し、サンド・ビーチに立ち寄った。崖の合間の小さな湾の砂浜に降り立つと、鈍色の空にかかった雲の切れ間からうっすらと光がさして、いつか見たアメリカン・リアリズムの絵画のような風景だ。

 世界中にルーツをもつさまざまな人々が浜辺で楽しんでおり、中には既に冬がそこまで来ているにもかかわらず足を海につけている人までいる。
 その後も、波の打ち付ける岩の海岸線を散歩し海を楽しんだ後は、島の山頂を目指して車を走らせた。今度は気持ちの良い山のドライブだ。

 山頂にたどり着くと、眺望が素晴らしい。木々が紅葉を始めた美しい島の景色、そして海の向こうの島々や対岸の半島まで見渡せる。

先住民のホームランド
 島内をだいたいまわり終え、バー・ハーバーに戻り、ジュニア・レンジャーの課題の一つになっているAbbe Museumに立ち寄った。バー・ハーバーにある先住民ワバナキ・ネイションズについて展示されたスミソニアン系列の小さな博物館で、元々行ってみようと思っていた場所だ。ワバナキ・ネイションズは、メイン州から赤毛のアンで有名なカナダのプリンス・エドワード島に及ぶ、広域の先住民国家の連合体だそうだ。ホームページを事前に見たところ、かなり厚い内容が期待できそうだった。
 地下には子どもコーナーがあり、娘はまずそこで先住民の文化に触れることのできるおもちゃや絵本で過ごし、その間ツレと私は交代でメインの展示を見ることにした。まず、メイン展示である“People of the first Light”を見る。これは、ワバナキの神話など人々の世界観や文化がわかるものとなっていた。ワバナキは、“People of the Dawn(夜明けの人々)”や“People of the Light(光の人々)”という意味らしい。カナダでは先住民を“First Nations(最初の国家)”と呼ぶそうで、この展示の名称も両方を意識したものであろう。
 さらに、歴史の展示パネルに移ると、このバケーションランドの始まりが書かれていた。

 1800年代半ばから20世紀の初めにかけて、このメイン州が観光地として開発され、新しく建築されたホテルでくつろぎ、釣りや狩りを楽しみに、そして消えゆく「インディアン」を観に、多くの観光客がこの地にやってきたという(この時代アメリカだけでなく日本のアイヌ民族など先住民が「万国博覧会」に「招待」され展示の一つになるなど、先住民が好奇心の対象になっていたようだ*1)。しかし、伝統的価値観に加え、狩猟権や漁業権等条約*2で権利や土地も危うくなり、暮らしに困った先住民の一部は自らも観光客を相手に生計を立てることとなった。観光客らの持つステレオタイプな(誤った)イメージの期待に応えながら。狩猟権や漁業権は、ここメインでも日本を含む世界中の先住民の権利問題として今に続く課題だ。
 最後に、売店で娘の選んだ先住民の模様の入ったイルカのおもちゃを買ってAbbe Museumを後にした。実は、後ろ髪引かれる想いだった。完成したばかりのドキュメンタリー映画“Dawnland”の上映会が夜あったのだ。

 予告編によると児童福祉の措置としてソーシャルワーカーが先住民の子どもを家庭から引き剥がし、白人家庭の養子としてきた歴史と、その過ちへのメイン州の現在の取り組みを扱ったドキュメンタリー映画らしい。夜遅い上映で、子連れでは難しそうなので、諦めたのだが。
 最後に、娘はジュニア・レンジャーのワークブックを公園内のビジター・センターに持っていき、ご褒美のバッジを獲得した。少々早い夕飯に地ビールのブリュワリー・レストランで、メイン州名物のロブスターロールとビールをいただく。

 いずれも美味しい。こうして、バケーションランドとホームランドを知ったメイン州の旅は終わった。

「私たちは今もここにいる」
 旅から帰った翌月11月、Dawnlandがテレビで放映されるというので観てみた。同化政策の一環として元々の家族と大地から引き離され、寄宿制の学校やグループホーム、そして白人家庭での養子生活を強いられてきた人々の痛みと悲しみが、絞り出すように語られる。調査と回復のプロジェクトを率いるメンバーの一人で、先住民の男性はこの誤った政策について言う。
――(この政策が進めば)もはや条約もなくなる、インディアンの権利もない、土地もない……そしてインディアンはいなくなる。
 もう一人のプロジェクトメンバーの白人男性は言う。
――文化的ジェノサイドと言う以外、言いようがない。
 もう一人の先住民の女性は言う。
――でも、私たちは今もここにいる。
 対人援助をしてきた私にとって、作中に出てくるかつて養子縁組にかかわったソーシャルワーカーも非常に印象的だ。かわいそうな先住民の子どもたちを救うために自分たちは正しいことをしている、と思っていたようだ。そして、今もそれほど後悔を感じているように見えなかった。善意の空恐ろしさに、背筋が凍りつく。
 「今もここにいる」先住民たちが、その文化とアイディンティティを保って「これからもここにいる」には、思った以上に複雑で険しい道が続きそうだ。作中、メイン州の取り組みについて前出の先住民の男性は言う。
――征服者から隣人になるために必要な移行なのだ。
 まずは向き合うことからなのだ、メイン州への旅とこの映画は、そう教えてくれたような気がする。


*1 鎌田遵著『ネイティブ・アメリカン――先住民社会の現在』(岩波新書)をpp. 72-78を参照。
*2 ヨーロッパ諸国は先住民部族を独立国として承認し、さまざまな交渉を国家間の合意文書である「条約」に基づいて行った。独立後も合衆国政府はこの政策を踏襲している。実際には、条約締結はしばしば先住民への強制や策略等によって得られたものであった。(参考文献:藤田尚則(2016)「条約――条約は、インディアンの有利に解釈される」、阿部珠理編著『アメリカ先住民を知るための62章』明石書店

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著者略歴

  1. 鈴木 晶子

    NPO法人パノラマ理事、セプテンバー・ハウスMAJコアメンバー(米メリーランド州登録NPO)。臨床心理士。大学院在学中よりひきこもり支援に関わり、若年無業者支援、生活困窮者支援などの現場を経験。生活に困難を抱える女性、若者、子どもの支援を中心に活動している。現在、在アメリカ合衆国。著書に『シングル女性の貧困――非正規職女性の仕事・暮らしと社会的支援』(共編著、明石書店、2017年)など。

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