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きた道アメリカ、オモテウラ

暮らすように旅する?(2) 体験型民泊ファームステイを家族で満喫

何もないからファームステイ
 感謝祭の土曜日、昼前に私たち家族はアトランタでの観光を終え、ワシントンD.C.近郊の自宅に向けて出発した。いつも通り自家用車でのロードトリップだ。1000kmを超える帰路である。美食で知られるサウスカロライナ州チャールストンからジョージア州に入り、南部の古い町並みの残るサバンナで宿泊し、綿花畑を抜けてたどり着いたアトランタ。途中一泊しながら最短距離で帰ろうと思ったのだが、途中に見所がなく、旅の計画段階で困ってしまった。
 地図上で見ると世界遺産・国立公園グレートスモーキーマウンテンや、その麓に位置するチェロキーが近そうだ。チェロキー族はアメリカ最大の先住民の部族の一つで、先祖代々住んできたこの近辺の土地から、強制的に西へミシシッピ川を渡り移住させられた歴史を持つ。「涙の旅路」と呼ばれるその道を大多数の先住民たちが渡っていった後も、「チェロキー」の地名が残っており、実際にチェロキー族のことを知ることのできるミュージアムやカジノリゾートなどが存在している。しかし、経路を実際に計算してみると、かなり遠回りで現実的ではなかった。
 途中の街といえば、アッシュビルがある。古くて美しい街だと聞いたので、訪れてみたいと思っていたのだが、水ぼうそうが大流行中というニュースを聞いたばかりだ。自由の国アメリカでは宗教上などの理由で予防接種は免除されるため、近年、インターネットに力を得た反ワクチン運動の結果、なんらかの理由をつけて子どもに予防接種を受けさせない親が増えているのだそうだ。4歳の娘はすでに日本で予防接種を受け終わっているものの、わざわざ立ち寄る気持ちにはならなかった。
 残るはどこまでも広がる緑の大地と田舎の農園や小さな町ばかり。そんな場所を最大限に楽しめるのはファームステイではないか、と思い至った。ファームステイ専用サイトなども見たのだが、結局世界最大級の旅行サイト・エクスペディアが提供する民泊サイトHomeAwayで、ちょうどぴったりの場所に娘の喜びそうな動物のいるファームを見つけることができた。クリーニング代を入れ1泊で税込約250ドル。マンハッタンでのルームシェア型民泊や前日泊まったアトランタのシェラトンホテルの3倍近くの値段で、この旅最大の出費となった。

地元食材で楽しむ夕食
 そのファームはノースカロライナ州のジェファソンという場所にあった。独立宣言で有名な第3代大統領トマス・ジェファソンの名を冠した、アメリカではよくあると言わざるをえない平凡な名前の土地だ。ファームステイ先は、母屋から独立した一軒家でキッチン付き。ファームハウスを楽しむため、途中地元食材を調達して部屋で夕飯をとることにした。
 まず、アッシュビル郊外にある肉の直売所を持つHickory Nut Gap Farmに立ち寄ってみた。ここではBBQソースの肉類や名物プルドポークのサンドイッチなどランチも食べることができ、近隣のチーズ農家やワイナリーの商品も一通り取り揃えて販売していた。私たちは、牛肉、ソーセージ、イチジク入りのチーズとクラッカー、アメリカ産ワインでは少々珍しいスペイン品種テンプラニーニョの赤ワインを購入した。駐車場の横には小川が流れ、ピクニックテーブルと滑り台のあるプレイスペースがあったので、娘はそこで遊ぶこともできた。
 その後、地元スーパーで野菜とパンを買い、ステイ先のファームに着いた頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。ファームハウスのドアは開いており、オーナーのリサさんの手書きのメモが置かれていた。中に入ると広々とした2LDKの一軒屋。キッチンには、採れたての卵を置いてくれていた。これで翌日の朝食が充実しそうだ。

   

 ひとしきり部屋を見て回ると、早速夕飯だ。ステーキを焼き、ソーセージ、野菜をグリルして、つまみにはチーズ。どれも美味しく、充実の夕飯だった。

   

 娘は家の中を探検しながら引き出しや棚を開けて、ボードゲームなどがたくさんあるのを見つけて大興奮だ。食事を終えると、4歳児には難しすぎるモノポリーなども含めていくつかのゲームを楽しんで、就寝となった。

手作りの暮らしを知って
 翌朝、卵と残りのソーセージで作ったオムレツで朝食にした後は、チェックアウトの時間までファームを散策してみることにした。ファームハウスの入り口にはハンモックがあり、娘が大喜びだ。

私たちの泊まっていたファームハウスのすぐ上には馬や鳥の小屋があった。昨晩、もっと早く到着していたら、自分で卵を採ってもいいことになっていた。

   

その後、「ツリーハウス」に行ってみることにした。あまりに広いこのファームには、泊まりにきたゲスト向けに標識が立てられているのだが、「ツリーハウス」という表示があるのだ。橋を渡り、丘を登り、ぬかるんだ道を抜けていくと、確かにはるか向こうの方にもう一つ家が見えた。木の上にあるという感じには遠目には見えないが、あそこがツリーハウスのようだ。あまりに遠く、これ以上娘を連れてぬかるんだ道を歩いて降りていくのは難しそうだ。仕方なく、引き返すことにした。

   

 戻ってくると、動物たちの小屋の横にある母屋のベランダから、バスローブ姿の男性が手を振ってくれた。程なく下に降りてきてくれた男性は、リサさんの夫であるステファンさんだった。ちょうどリサさんも馬の世話から戻ってきた。とてもフレンドリーなご夫妻だ。入り口に近い方に今ヤギなどがいるから子どもが餌やりなどをすると楽しいよ、今日は特に宿泊客は入っていないからチェックアウトの時間は気にせずゆっくりしていってと言ってくれる。私たちは、もう少しファームで遊んでいくことにした。最後に、ツリーハウスのことを聞いてみると、やはり丘の向こうにあった家がツリーハウスだということだった。
 2人と別れて、動物たちの小屋の向こうに歩いていくと、確かにヤギやロバがいた。草を摘んで差し出すとたくさんのヤギがやってくる。最初はおっかなびっくりだった娘も、次第に慣れて楽しそうに餌をあげている。そこに、ステファンさんが車に乗ってやってきた。ツリーハウスに連れて行ってあげるから、乗りなよというのだ。お言葉に甘えて、ツレが助手席に、私と娘は荷台の干し草の上に座らせてもらい、丘の向こうに連れていってもらうことにした。
 ツリーハウスに入ると息を飲んだ。美しい木の部屋の向こうに、広々とした森が広がり、大変に居心地の良い空間になっていたのだ。

   

 何よりも驚いたのが、これがステファンさんの手作りの家だということだ。元々この地域に暮らしていた2人が、12年前にここを気に入って購入してからというもの、次々と手作りで建物を建ててきたそう。その最新作がこのツリーハウスだ。手の込んだ照明もステファンさんの手作り。農園主であり、大工であり、アーティストでもあるのだ。感心しきりの私たちにステファンさんは母屋の工房も見せてくれた。美しい照明や家具などをそこで作っているのだという。絵も描くそうだ。

 どこかインテリアショップなどに作品をおろしていないのか尋ねると、以前は作品が飾られたリビングスペースをギャラリーとして公開していたが、今は特に販売はしていないそうだ。

エピローグ
 最後にステファンさんと記念写真を撮り、動物を世話していたリサさんに別れを告げてファームを後にした。

 すっかりステファンさんたちの作品と暮らしに魅了された私たち。同じくHomeAwayでレンタルに出しているというあのツリーハウスに、次は泊まりに来ようと思いながら、走る田舎道でふと思った。こんな生活をしていたら、猟銃の一丁や二丁持っているよねぇ、と。
 ここジェファソンを含むアッシュ郡は2016年の大統領選で63%の人がトランプに投票した郡だ。ステファンさんとリサさんもトランプに投票したんだろうか?あまりに広がった暮らし方の違い、その中にある価値観の違いがアメリカの分断のベースにあるのではないか、2人の人懐っこい、温かな笑顔を思い出しながらそんなことを思った帰り道だった。

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著者略歴

  1. 鈴木 晶子

    NPO法人パノラマ理事、セプテンバー・ハウスMAJコアメンバー(米メリーランド州登録NPO)。臨床心理士。大学院在学中よりひきこもり支援に関わり、若年無業者支援、生活困窮者支援などの現場を経験。生活に困難を抱える女性、若者、子どもの支援を中心に活動している。現在、在アメリカ合衆国。著書に『シングル女性の貧困――非正規職女性の仕事・暮らしと社会的支援』(共編著、明石書店、2017年)など。

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